2018年4月19日木曜日

総称文:例外を許容するどころでない例

裸複数形の主語をもつ総称文は,「すべてのXは…」の全称命題の文とちがって,例外を許容する(例文と容認度の判定ともにアラン・クルーズ『言語における意味』§19.1.1.3 を参照):
(23) Tigers, with few exceptions, are friendly beasts.(トラは,わずかな例外こそいるものの,人懐こい獣だ)
例外が多いと,容認されにくい:
(24) ?Tigers are friendly beasts, although many of them aren’t. (?トラは人懐こい獣だが,その多くはそうでない)
そして明らかに,全称命題の文では例外を認めるのはおかしい:
(25) *All tigers are friendly beasts, although there are a few exceptions. (*すべてのトラは人懐こい獣だが,まれに例外もいる)
基本的に,この話は正しいのだと思う.でも,これに合致していそうにない事例もたまに見つかる.たとえば,この用例はどうだろう?(太字強調は引用者によるもの)
(...) advances in forensic science, particularly DNA fingerprinting, have shown that innocent people have almost certainly been put to death (...)
(S.Pinker, Enlightenment Now, ch.14)
いちおう訳しておこう:
(…)法医学の発展,とくに DNA鑑定の発展により明らかになったように,これまでに無実の人々がほぼ確実に死刑に処されてきた(…)
もしも太字強調した箇所を「例外もあるがたいてい無実の人々は死刑に処されてきた」とすると,とてもおかしなことになってしまう:「無実の人々」全体のうち9割くらいが処刑されてきたなんてこと,あるわけがない.

「いや,これは総称文に関する記述の反例じゃない:この文は総称命題を表していないんだ」――これは正しいけれど,問題が解決するわけではない.一部の例外を認めるがたいていの X に当てはまることを述べる命題を総称命題と呼ぶなら,なるほど定義により上記の用例は総称命題を表していない.だとすると,裸複数形主語をもつ文は,ときに総称命題を表し,ときにそうでない命題を表す,ということになる.これはラベルを付け替えただけで,もともとの疑問が解消するわけではない:「で,総称命題ではない命題って,どんな量化をしてるんだろう?」「総称命題とそうでない命題の解釈はどう区別されるんだろう?」「その2つの解釈にはなにか共通点はあるんだろうか?」「もしかして,2つの解釈はもっと基底的な意味から派生されてたりしないだろうか」etc.

なんか論文はありそうだけど,とりあえず思い当たるものはないので,メモだけとって投げっぱなしにしておくね.

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