2018年4月23日月曜日

スタンフォード哲学事典の「言語行為」を訳読しよう #10

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3.3 発語内効力の7つの構成要素


オースティンのアプローチを体系化してさらに深めるべく,サールとヴァンダーヴェーケンは次の2つを区別した――ある言語を共有する人々のあいだで採用されている発語内効力と,可能なあらゆる発語内効力,この2つだ (Searle and Vanderveken 1985) .特定の言語コミュニティでは,推測を述べたり役職に指名したりといった効力をまったく使用しないかもしれない.それでも,可能なあらゆる効力の集合にこの2つは含まれている.(著者2人は可能な効力の集合は無限かもしれない一方で,濃度は一定だと想定しているようだ.) サールとヴァンダーヴェーケンはさらに議論を進めて,7つの特徴で発語内効力を定義している.彼らの主張によれば,あらゆる可能な発語内効力はこれら7つ組がとる値で同定されうるのだという.

1. 発語内目的 (illocutionary point):いろんなタイプの言語行為それぞれに特徴的な目的・ねらいを発語内目的という.たとえば,確言に特徴的な目的は,物事のありようを記述することだ.さらに,聞き手にそのことを信じさせることもその目的かもしれない.約束に特徴的な目的は,みずからを未来の行動指針にしばりつけることだ.

2. 発語内目的の強度 (Degree of strength):発語内目的が共通している発語内行為を2つ並べてくらべてみると,強度の尺度でちがっていることがある.たとえば,相手にこういうことをしてくれとお願いするのとせがむのとでは,相手にそうさせようと試みる目的は同じだけれども,せがむ方がお願いより強い.

3. 達成の様態 (Mode of achievement):言語行為の発語内目的がこのように達成されねばならないという特別な方法がある場合もある.証言と確言は,ともに物事のありようを記述するという目的をもっているけれども,証言の場合には,証言する当人が目撃者としての権威を喚起することになる一方で,確言ではそういうことがない.証言とは,目撃者としての資格においてなにごとかを確言することだ.指令とお願いは,どちらも聞き手になにかをさせる目的がある.だが,指令を発するのは,しかじかの権限をもつ人物としての資格においてのみなされる.

4. 内容条件 (content conditions):発語内行為のなかには,適切な命題内容でないと達成されないものがある.たとえば,約束できる事柄は,将来自分の力が及ぶ事柄にかぎられる.少なくとも,自分と聞き手から見て明らかに自分にはできない事柄を約束することはできない.同様に,謝罪できるのは,なんらかの意味で自分の力が及びえた事柄で,しかもすでに事実となった事柄にかぎられる.このため,昨日太陽が昇らなかったことにするよう約束することはできないし,スネルの法則が成り立っている件について謝罪することはできない.(平叙文以外の内容に関する意味論について先ほど述べたことに照らして見ると,この条件は命令文や疑問文の命題内容条件として捉え直せるだろう.)

5. 予備条件 (preparatory conditions):言語行為が不発にならないために満たされるべき他のあらゆる条件をまとめて予備条件という.こうした条件は,言葉を交わしている当人たちの社会的地位に関わる場合がよくある.たとえば,遺言で形見をゆずれるのは,当人がそれを所有していたり法律家としての権限があるときにかぎられる.また,あるカップルを結婚させられるのは,そうする権限がある人物に限られる.

6. 誠実性条件 (sincerity conditions):多くの言語行為では,なんらかの心理状態が表出される.確言は信念を表出する〔「そこの角にコンビニがあるよ」と確言すれば,当人がそう信じていることが表出される〕,謝罪は後悔を表出する,約束は意図を表出する,などなど.ある言語行為が誠実なのは,その言語行為が表出する心理状態に話者があるときにかぎられる.

7. 誠実性条件の強度:他の尺度はそっくり同じ2つの言語行為が,表出される心理状態の強度で異なる場合がありうる.お願いと懇願は,ともに〔相手にそうしてほしいという〕欲求を表出し,他の6つの尺度では同一であるものの,お願いより懇願の方が強い欲求を表出する.

サールとヴァンダーヴェーケンは,こうした7つの特徴にてらして,それぞれの発語内効力は7つ組の値で定義できるだろうと提案している (Searle and Vanderveken 1985).彼らによれば,この7つ組がとる値それぞれは,7つの特徴の値を「設定」するのだという.この提案にしたがうなら,2つの発語内効力 F1 と F2 は,同一の7つ組に対応しているときにのみ同一となる.

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つづく.

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