「公正と公開討議についての書簡」
2020年7月7日私たちの文化的制度は,試練の時を迎えようとしている.人種的・社会的な公正をもとめる強力な抗議が起こり,長らく遅れていた警察改革を求める声が上がっているばかりか,さらに,高等教育・ジャーナリズム・慈善活動・芸術にとどまらず,私たちの社会全域にわたって,いっそうの平等と包摂が広く求められている.しかし,こうした清算は必要ではあるものの,同時に,この清算によって新たな種類の道徳的態度と政治的な姿勢が強化されている.この道徳的態度と政治的姿勢は,イデオロギー面での順応を優先して,公開の討議とお互いの相違への寛容という私たちの規範を弱める傾向がある.公正を求める前者の動きを私たちは歓迎する一方で,後者には抗議の声を上げる.反自由主義 (illiberalism) のさまざまな勢力は,世界中で力をつけており,ドナルド・トランプという強力な同盟者もいる.トランプは,民主主義に対する紛れもない脅威を代表する人物だ.だが,これへの抵抗をはかろうとして,みずからも教条や強制で団結することになってはいけない――右派デマゴーグは,すでにこれらを利用している.いたるところに入り込んでいる不寛容の空気に対して声を上げることなくして,私たちがのぞむ民主的な包摂は達成できない.情報とアイディアの自由な交換という自由主義社会の血液は,日に日に制約を受けるようになっている.急進右派からこうした制約がもたらされることは私たちも予想してきたが,検閲・あら探しも私たちの文化にいっそう広まっている:対立する見解への不寛容,公開の場での晒しあげ・追放の流行,複雑な政策問題を盲目的な道徳面での確信に解消してしまう傾向が広まっている.あらゆる分野からもたらされる断固とした言論,辛辣ですらある対抗言論の価値を,私たちは支持する.だが,言論や思想における〔道徳的な〕違反・逸脱と受け取られた言動に対して,即座に厳しい懲罰を加えるべしとの声を耳にする機会が,いまやあまりに多くなっている.さらに,いっそう悩ましいことに,組織・団体の指導者たちも,混乱のうちにダメージコントロールをはかろうとして,思慮ある改革を行うかわりに,〔当該の言動への制裁として〕拙速かつ不釣り合いな処罰を下している.論争をよぶ記事を掲載した編集者は解雇され,不誠実とされた書籍は回収され,特定の話題についてジャーナリストたちは執筆を禁じられ,講義で文学作品から引用した教授は調査を受け,ピアレビューを受けた学術研究を配布した研究者は解雇され,組織の長たちはときにたんなる不手際でしかない間違いで失脚している.個別事例をめぐる議論がどうであれ,こうしたことの結果として,報復の脅威なしに言えることの領域は一貫して狭まり続けている.共通の見解から逸脱したり,さらにはただ同意する姿勢が不十分だとされたりして生計を失うのを恐れる著作家・芸術家・ジャーナリストたちのあいだにリスク回避が強まるという対価を,私たちはすでに支払っている.こうした息苦しい空気は,最終的には私たちの時代できわめて重大な目的を損なうことになる.抑圧的政府によるものであれ,不寛容な社会によるものであれ,討議が制限されれば,必ず力なき者は痛手を負い,誰もが民主的な参加をしにくくなる.悪しきアイディアを打ち負かす方法は,それを暴き,論証し,説得することであって,相手を黙らせたり,追放を願ったりすることではない.公正と自由のいずれか一方を迫る虚偽の選択を,私たちは拒否する.公正と自由は,2つそろってはじめて存在しうる.著作者として,私たちが必要とする文化は,実験を行い,リスクをとり,失敗を犯すことを受け入れる文化だ.職業上の悲惨な帰結をともなうことなく誠意をもって意見を異にできる条件を,私たちは保つ必要がある.私たちの著作が寄って立つところを守ろうとしないのであれば,公共や国家がかわりに守ってくれるなどと期待すべきではない.
2020年7月8日水曜日
「公正と公開討議についての書簡」
Harper's Magazine に公開された書簡を訳したよ.
2019年3月8日金曜日
2019年1月24日木曜日
2019年1月18日金曜日
2019年1月15日火曜日
2019年1月14日月曜日
マクファーレン「評価文脈相対主義」を訳読してみよう #02
つづき.「彼はボストンにいるかもしれない」みたいな認識的法助動詞につづいて,「評価文脈」に相対的にのみ真偽が(「正確かどうかが」)判定できる例があるという事例をもうひとつ素描している.
2019年1月13日日曜日
マクファーレン「評価文脈相対主義」を訳読してみよう #01
『ラウトレッジ哲学手引き』から,ジョン・マクファーレンによる "Relativism" をちょっとずつ訳読してみよう.
- John MacFarlane, "Relativism," The Routledge Companion to Philosophy of Language (Gillian Russel & Delia Graff Fara eds.), Routledge, 2012, pp.132-142.
2019年1月12日土曜日
スタンフォード哲学事典「言語行為」をPDFにまとめたYO
2018年11月1日木曜日
ウェストン先生の『論証のルールブック』を7割ほど訳した
アンソニー・ウェストンせんせいのロングセラー『論証のルールブック』第5版をとある授業で学生さまに読んでもらうついでに訳している.いまのところ,第7章までは終わってる.あと,付論の「定義について」も訳してある.
古い第3版は翻訳書が出てる:
じゃあ第5版をわざわざ訳す意義はあるのかっていうと,それなりにあるとぼくは思ってる(ので訳してる).まず,新しい版で加えられた章がある.口頭発表のやり方や公開討論についての助言(第9章,第10章)がそれだ.また,本文もけっこう手が加えられている.あと,これは好みの部分も大きいけれど,古草先生の訳文は割とかたい文体にしてある.でも,ウェストン先生の語り口はもうちょっと軽妙だ.ぼくとしては,そういうスタイルを日本語でも活かした方がいい本になると思う.
ともあれ,いまのところどっかから翻訳書が出版される予定はないし,たぶんバカ売れするものでもない.それでも,長らく読まれてるだけのことはあるコンパクトな良書で,新規の訳書にも意義はあると思うんだけど――どんなものでしょうね?
追記: 旧版の訳者でもある古草先生の訳で第5版の翻訳書も出たYO! [Amazon]
- 第1章 短い論証
- 第2章 事例による論証
- 第3章 類推による論証
- 第4章 権威による論証
- 第5章 原因についての論証
- 第6章 演繹的な論証
- 第7章 長文の論証
- 第8章 論述文
- 第9章 口頭で論証を述べる
- 第10章 公開討論
- 付論I: よくある誤謬
- 付論II: 定義について
- 参考資料(リソース)
古い第3版は翻訳書が出てる:
- 『論理的に書くためのルールブック』(古草秀子=訳,PHP,2005年)
じゃあ第5版をわざわざ訳す意義はあるのかっていうと,それなりにあるとぼくは思ってる(ので訳してる).まず,新しい版で加えられた章がある.口頭発表のやり方や公開討論についての助言(第9章,第10章)がそれだ.また,本文もけっこう手が加えられている.あと,これは好みの部分も大きいけれど,古草先生の訳文は割とかたい文体にしてある.でも,ウェストン先生の語り口はもうちょっと軽妙だ.ぼくとしては,そういうスタイルを日本語でも活かした方がいい本になると思う.
ともあれ,いまのところどっかから翻訳書が出版される予定はないし,たぶんバカ売れするものでもない.それでも,長らく読まれてるだけのことはあるコンパクトな良書で,新規の訳書にも意義はあると思うんだけど――どんなものでしょうね?
追記: 旧版の訳者でもある古草先生の訳で第5版の翻訳書も出たYO! [Amazon]
2018年9月24日月曜日
おしえてフォコニエ & ターナーせんせいズ #1
もうだいぶ古い本だけれど,フォコニエ & ターナーの The Way We Think (Basic Books, 2002, pp.39-40) [Amazon] から,メンタルスペースと概念融合について解説した箇所をちょっぴり抜粋してみるYO.
2018年9月19日水曜日
S.ピンカーとH.バーバの議論(追記:ピンカーのみ抄訳)
スティーブン・ピンカーと,「ポストコロニアル理論」のホミ・バーバのあいだで書面で交わされた議論(9月22~23日に2人が参加するイベントがなんかあるらしい):
- "Does the Enlightenment Need Defending?" iai news,September 13, 2018.
ピンカーの最初の返答では,進歩・発展に対して向けられがちな批判の問題点を例によって平易な文章で述べている.ちょっと訳してみよう:
2018年9月18日火曜日
2018年9月14日金曜日
2018年9月13日木曜日
定義のルール #2:「用語の意味が争点になったときは明瞭な事例から手をつけよう」
2018年9月12日水曜日
定義のルール #1: 「用語の意味がはっきりしないときは,意味をつきとめよう」
昨日抜粋した「定義は論証の代わりにはならない」のついでに,ウェストン『論証のルールブック』から定義を解説してる他の箇所も少し訳してみよう:
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