「パフォーマティブ」っていいたい紳士淑女のみなさまへのご提案

ジェンダー論まわりでなんか「パフォーマティブ」って言いたいみなさまに,言語行為論をいくらか知っている人間からご提案させていただきたい.

まず,最初にとても基本的なことを確認しましょう:あなたが言いたいことは,本当に,初期の言語行為論で言う「パフォーマティブ」すなわち行為遂行的な発語のことなのでしょうか? そもそも,あなたは言語行為論を必要としているのでしょうか? (関連事項として:「コンスタティブ vs. パフォーマティブ」という区別はあまり便利な区別ではありません――が,これはさしあたり脇に置いてしまいましょう.)

あなたが言いたいことが次の事項 (1)-(3) に当てはまらないか確かめてみましょう――
  • (1) 必ずしも言葉の使用に関わらない事柄である; 
  • (2) 個別の行動・行為というよりは習慣的な営み,「プラクティス」である; 
  • (3) 演技的または誇示的な言動を念頭に置いている.
項目 (1) に該当する場合――おそらく,言語行為論そのものをあなたは必要としていません.ジョン・サールは言語行為論を包括する理論を構築すべくもっと一般的な心の哲学や社会の哲学を追求してきましたから,もしかしたらそちらになにかあなたの役に立つ分析や提案がみつかるかもしれません.ともあれ,言語行為論そのものはあくまで「言語行為」を考察対象にしているのですから,あまり期待はできないでしょう.

項目 (2) に該当する場合――「パフォーマティブ」などと言わずに,そのまま「実践」「営為」「習慣」「プラクティス」などの言葉を用いればよいのではありませんか? 行為遂行的な発話は,特定の場所・特定の時に特定の誰かが発する個別の発話(e.g.「この船をクイーンメアリー号と命名する」)のことであって,習慣や継続的な営みのことではありませんよ.なんでこのような縁遠い用語を持ち出しているんです? めんどくさくありませんか?

項目 (3) に該当する場合――言語行為論でいう「パフォーマティブ」は演技や誇示的な言動を扱うものではありません.少なくとも,大幅な拡充なしにはむりです.あなたには演技や誇示的言動をそのものとして扱うツールが必要なのであって,言語行為論そのものはおそらく助けにならないでしょう.なるほど performance の一般的な語義には「演技」や「演奏」の意味もありますよね.でも,その話をしたいのであれば,べつに言語行為論をもちださなくてすみますよ.

「ちがうんやよ,行為というのは演技性=ぱふぉーまてぃびてぃーを帯びるものであって(以下略)」――なるほど,面白そうなお話ですね.そして,その面白いお話は英語の  performance の多義性にひっかけた *ダジャレ* ですむことではなく,それ自体の論証を必要とします.そうでしょう? ぼくらが日々あれこれやっている行為がどれもこれも「演技」であるというのは,文字通りにとればとても強い主張ですよ.がんばってください,グッドラック.

つまるところ,項目 (1)-(3) のどれかに当てはまるなら,あなたは中途半端に言語行為論に引っかけたかたちで「パフォーマティブ」という用語を使う理由がないのです.

「でも,ジュディス・バトラーが…デリダが…」――はいはい,彼ら・彼女らが J.L.オースティンの言語行為論を断片的に引き合いに出しながらなんか言っていて,あなたとしては,そこを参照せずに議論できないとお考えなんですね.もしかすると,先輩や先生や師匠に「バトラーも引かずにジェンダー論とな?」と怒られるのかもしれない(お察しします,たいへんですね).だったら,ぼくからぜひご提案させていただきたい.というか,お願いします――バトラーせんせいやデリダせんせいが「パフォーマティブ」云々といっている議論を整理して,概念の混乱を廃し,もっと洗練させてください.きっと,その作業はジェンダー論まわりにいるあなたの仲間たちの助けになるはずです.先輩やら先生やらが言うパフォーマティブうんちゃらかんちゃらの議論,「なんだかわけわかんねーなぁ」って思いませんでしたか? たかが概念整理であっても,議論の見晴らしを良くしてみんなに知的な利得をもたらす尊い作業になるとぼくは思いますよ.

「いや,その作業は大変すぎてちょっと…」――なるほどなるほど,そりゃそうです.じゃあ,「バトラーせんせいやデリダせんせいがいう『パフォーマティブ』論はよくわからんので,ここでは使わないよ」って選択肢はいかがでしょう? 脚註あたりで「こういうお話もあります」ってかるく触れてすませる手もありますね.なんだかぐちゃぐちゃして議論の本筋の見通しがわるくなっちゃうくらいなら,はじめから議論にもちこまなきゃいいんですよ.だいたい,自分でもよくわからない言葉をおまじないのように書き綴るなんて,きもちわるくなっちゃうじゃないですか.

いずれにせよ,なにより大事なのは,言語行為論に引っかけたかたちで 「パフォーマティブ」云々をもちだすことが *あなたの議論を明快にして物事の理解に資するかどうか* です.ぜひ,あなたとあなたの読者のために,世の中の理解を進める助けに「パフォーマティブ」がプラスになっているかどうかをお考えくださいまし.

――考えてみたうえで,フォースの暗黒面に堕ちる道をゆくというのであれば,もはや,ぼくから申し上げることはありません.

オマケ: これまでのじゃっかんの因縁など


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