- Wetzel, Linda (2006). "Types and tokens," Stanford Encyclopedia of Philosophy.
以下,セクション 1 の抄訳:
1. タイプとトークンの区別
1.1 どういう区別か
タイプとそのトークンとの区別は,モノの一般的な種類とその個別具体的な事例との存在論的な区別だ(直観的かつ初歩的な区別を言えば).たとえば,読者の目の前にあるページにガートルード・スタイン "Sacred Emily" から引いた一行にいくつの単語があるか考えてみよう:
Rose is a rose is a rose is a rose.
「単語」の意味によって,3つの異なる単語があるという数え方もできるし,単語が10コあるという数え方もできる.C.S.パース (1931-58, sec.4.537) は,前者の意味の単語を「タイプ」,後者の意味の単語を「トークン」と呼んだ.一般に,タイプとは抽象的でそれぞれ1つきりのものだと言われる.他方,トークンは個別具体的なもので,〔紙の上の〕インクやコンピュータスクリーン上の光るピクセル(というかそのなかの光っていないピクセル)や,点と線の電子的なつらなりや狼煙や手話のサインや音波などなどでできたものを言う.書き言葉のタイプと話し言葉のタイプの比率を調べた研究によれば,話し言葉のスウェーデン語に比べて書き言葉のスウェーデン語の方が2倍も多いそうだ (Allwood, 1998).赤ちゃんの親が「うちの子はこれまで言葉をいくつしゃべったんでしょうね?」とたずねて「300ですよ」と聞かされたら,「単語のタイプですか,それともトークンですか」と尋ねてみた方がいい.もしもタイプの話だったなら,その子は天才だということになるからだ.新聞記事の見出しで「アンデスからエプコットへ,8,000年前の豆の冒険」とあったら,「それって,豆のタイプの話なのかな,それともトークンの話なのかな?」と疑問が浮かぶかもしれない.
1.2 タイプ/トークンでないもの
この件はのちほど §8 でもっと十全に議論するが,最初に,タイプとトークンの区別は,タイプとその生起事例(オカーレンス)の区別とは別物だという点に触れておくべきだろう(ここでいう「生起事例」は論理学者たちの用語だ).残念ながら,トークンのことをタイプの「生起事例」だと説明するケースがよくある.だが,生起事例がいつでもトークンに該当するとはかぎらない.その理由を理解するには,さきほどのみたガートルード・スタインの一行そのものを1つのタイプとして考えて,そのタイプの1トークンとは考えずに,「ここにいくつの単語があるか」と考えてみるといい.ここでも,答えは「3語」あるいは「10語」だけれど,単語のトークンが10個あるという答えはありえない.この一行は固有の時空間の位置を占めない抽象的なタイプであって,したがって個別具体的なトークンで成り立っているはずがないのだ.だが,この一行を構成している単語タイプは3つしかないわけで,だったら「10個」という答えではなにを数えているのだろう? いちばん適切な答えは,(論理学者たちの用語法を踏襲すると)「単語タイプの10個の生起事例からできている」というものだ.もっと詳しくは§8 の「生起事例(オカーレンス)」を参照.
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