2017年8月30日水曜日

SEP「タイプ vs. トークン」§2.3

スタンフォード哲学事典「タイプ vs. トークン」のつづき.(前回はこちら


2.3 科学と日常の談話 

哲学・言語学以外では,科学者たちはタイプを計量化して,それを指し示すのに単称名辞を使っている.たとえば,「シロアメリカグマ」(the "Spirit Bear") はブリティッシュコロンビア沿岸部の雨林に生息する希少なシロクマだという話を読んでわかるのは,1頭1頭の熊が希少だということではなくてシロクマのあるタイプが希少だということだ.こうしたシロアメリカグマは「メラノコルチン1-受容体の遺伝子に変異がある」という記事 (“have a mutation in the gene for the melanocortin 1 receptor”; The Washington Post 9/24/01 A16) を読むとき,そこで指し示されているのがトークンの変異,トークンの遺伝子,トークンの受容体ではなくてタイプの話だということをわかって読んでいる.次のような記事では,指し示されているのがタイプだということがいっそう明白になる――「あらゆる男性は同じ Y 染色体をもっている(…).千年単位でときどき生じる変異をのぞいて,この唯一無二の Y 染色体はあらゆる存命の男性で同じ DNA 配列をもっている」(“all men carry the same Y chromosome…. This one and only Y has the same sequence of DNA units in every man alive except for the occasional mutation that has cropped up every thousand years”; The New York Times, Nicholas Wade 5/27/03).

上記のパラグラフには,(明らかに)タイプを指し示している単称名辞が登場している.タイプが存在すると想定しているのがいっそうあからさまになるのが,よくなされるタイプの計量化だ.たとえば Mayr (1970, p.233) では,「鳥類には合計 8,600の種があり,さらに下位種がおよそ 28,500種ある.1つの種あたり平均で 3.3 の下位種がいるわけだ(…).ツバメ70種には,平均で 2.6 の下位種がある.他方,サンショウクイ70種それぞれには平均で 4.6 の下位種がある.」 こうした例は生物学のものだが,物理学でも(あるいは他のどの科学でも)いろんな例が見つかる.たとえば(60年代には)こういう主張があった――「素粒子は30ある.だが,電子・ニュートリノ・光子・重力子・陽子をのぞいて,どれも不安定だ.」 人工物のタイプ(Volvo 850 GT,Dell Latitude D610 ラップトップ)も指し示されやすい.〔科学ではなくてもうちょっと日常的な語法を見ると〕チェスでは,こんなことが言われる――「2(…)dc のクイーンズ・ギャンビットを受け入れるかたちは1512年から知られているが,このオープニングでは黒は用心しなくてはならない――ポーン・スナッチはあまりにリスクが大きい.」 いたるところにタイプの話が見つかる.

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