2018年4月27日金曜日

スタンフォード哲学事典の「言語行為」を訳読しよう #13

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4.1 効力慣習説

〔上記の問いに対する〕よく知られた回答の1つは,効力慣習説 (force conventionalism) という.効力慣習説の強いバージョンによれば,言語行為が遂行されたならば,そこには必ずその言語行為を生じさせるために喚起されたなんらかの慣習があるのだという.この慣習は,単語に字義的な意味をもたせている慣習を超越している.このため,効力慣習説から出てくる含意として,’I promise to meet you tomorrow at noon’(明日の正午にあなたに会いにくると約束します)を使って約束がなされるためには,たんにそこで使われている言葉に標準的な慣習的意味があるだけでなく,しかるべき条件下でしかじかの言葉の使用は約束を構成するという慣習が存在しなければいけないことになる.J.L.オースティンは,この見解をとっていたように思われる.たとえば,言語行為の「適切性条件」を特徴づけるにあたって,オースティンはこう述べている:どの言語行為についても――
特定の慣習的な効果をもつ慣習的な手順が広く受け入れられて存在していなくてはいけません.こういう場面でこういう人物によってこういう言葉が発せられる,といったことを含む手順がなくてはいけません(…)(Austin 1962, p.14) 
オースティンに学んだサールもこれを踏襲してこう書いている:
(…)発話行為 (utterance acts) は命題行為・発語内行為に対応する.ちょうど,たとえば投票用紙に X 印をつけるのが投票することに対応するのと同じかたちで対応している.(Searle 1969, p.24) 
サールはさらに論を進めて,この主張をはっきりさせてこう断定している:
(…)ある言語の意味構造は,基底の構成的規則の一連の集合が慣習的に実現したものとみなせるし,(…)言語行為とは,典型的にこうした構成的規則の集合にしたがって文を発話することによって遂行される行為だ.(Searle 1969, p.37) 
オースティンの説に比べて,サールが考えている効力慣習説は弱いかたちをとっている.言語行為のなかには,構成的規則なしで遂行されうるものがあるという余地を残しているからだ.サールは,犬が外に出してくれとお願いする例を考察している (1969, p.39).それでも,言語行為は典型的に構成的規則を喚起することで遂行されるとサールが主張しているのはまちがいない.

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訳註: サールの引用文に出てくる「発話行為」(utterance acts) は,その名のとおり,言葉を発するという基礎的な行為のこと(だから,紙に X 印を書き込む基礎的な行為と類比させているわけだ).言語行為または発語内行為とは異なる概念なので混同に注意してほしい.ときに,speech acts の訳語に「発話行為」という訳語が当てられているケースもあるので話がこんがらがってしまう.

つづく.

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