2018年4月26日木曜日

スタンフォード哲学事典の「言語行為」を訳読しよう #12

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4. 叙法・効力・慣習


内容は効力を決定しきらず効力も内容を決定しきらない.さらには,内容に叙法を組み合わせても,やはり効力は決定しきらない. 'You'll be more punctual in the future'(将来はキミももっと時間に厳しくなるよ)は直説法の文法的な叙法をもつ文だが,すでに見たように,これでは効力は決定されない.同じことは,他の文法的叙法についても言えるかもしれない.誰かが 'Shut the door'(ドアを閉めること)と声に出しているのを立ち聞きしたとしよう.それだけでは,その人が命令をしているのだと推論できない.もしかすると,たんにじぶんがこれからやろうと思っていることを口に出しているだけかもしれない:「ぼくはドアを閉める意図がある」ということを「ドアを閉めること」で言っているのかもしれない.疑問法も同様だ:誰かが 'who is on the phone'(電話にでてるのは誰)という言葉を発しているのを立ち聞きしたとしよう.それだけでは,その人が質問しているのかどうかわからない.実は 'John wonders who is on the phone'(電話にでてるのは誰かジョンはわかんないんだよ)と言ったのに一部だけを聞いたのかもしれない.文頭を大文字にするなり,文末に疑問符をつけるなり,あるいはその両方ともやるなりすれば,問題は片付くだろうか? そうではなさそうだ:What puzzles Meredith is the following question: Who is on the phone?(メレディスが困惑したのはこんな問いだ:電話にでてるのは誰?)

叙法と内容を組み合わせても効力は決定しきらない.他方で,文法的叙法は,私たちが使えるいろんな装置のひとつであり,これに文脈の手がかりやイントネーションなどを加えれば,どんな効力とともに内容を表現しているのかが示されるというのは,ありそうな仮説だ.この弱いかたちで理解すれば,疑問法は質問するのに使われ,命令法は命令するのに使われる,等々と解釈するのに問題はない.こう理解すれば,文法的叙法と内容だけではわからないのだとして,それでは話者はじぶんの言語行為の効力をどうやって示しているのかと問うことができるだろう.

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訳註: 用語について少しだけ.平叙文・疑問文・命令文を指して文法的な叙法 (grammatical mood) と著者は言っている.これはこれで別にいいけれども,もう少し分類を整理しておきたい.英語では動詞そのものの形態変化で表される叙法に直説法 (You were quiet. / If you are a pro, you can do it) と仮定法 (You should have been quiet. / If you were a pro, you could do it) の2つか,これに命令法 (Be quiet! / Do it!) を加えて3つある.そして,平叙文も疑問文も,ともに直説法・仮定法のどちらもとれる.この点で,動詞の形態変化による叙法(直説法・仮定法・命令法)と,平叙文・疑問文・命令文の機能は別物として区別した方がいい.

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