ミラー先生の『消費』のサンプル訳をつくってみよう (19)
つづき:
【著者について】
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文化理論家たちは,いい洞察を提供してくれている:本を理解しやすく書くには,著者は自分の背景と動機をあけすけに語り,ありそうなバイアスや盲点について批判的に我が身を省みるといい.とかく,進化心理学者は,人種差別野郎だ,性差別野郎だ,保守の還元主義者だなどと戯画化される.そこで,ぜひともこういう誤解を払拭しておかねばならない.念のために言っておこう.ぼくは世俗的な人間主義者だし,反戦国際主義者だし,動物の権利を尊重する環境保護主義者だし,ゲイを肯定するフェミニストだし,大半の社会問題・性的問題・文化問題についてはリバタリアンの立場をとっているし,登録した民主党員でもある――ようするに,典型的な心理学教授だ.
ニューメキシコ大学では,半ダースほどの博士課程学生たちといっしょに研究している.扱う主題は,人間の配偶者選択,知能,創造性,性格,精神疾患,ユーモア,情動とさまざまだ.妻とのあいだにめぐまれた12歳の娘がいて,13年もののトヨタ車に乗り,アルバカーキで築54年の住宅に暮らしている.同じ人類の半数をいまだにさいなんでいる心をくじく貧困や無力を思い知る絶望を理解しようとつとめてはいる(たとえば,南米・アフリカ・アジアの大半の人たちや,大学院の学生たちの苦しみを).でも,大学でテニュアを確保して得ているそれなりの所得のおかげで,そうした問題が我が身に差し迫っているわけではない.20世紀の3分の2が過ぎた頃に生まれたぼくは,携帯電話の流行にこだわるほど若くはないし,ホスピスの費用を気に病むほど年寄りでもない.地球に暮らす人類の 1.47パーセントと同じく,ぼくは白人で異性愛者でアメリカ人の男性.だから,よいダーウィン主義フェミニストになろうとつとめてはいるけれど,性別と性的指向のおかげで,ときどきうっかりすることもある.外国で9年暮らしたことがあるとはいっても,イギリスとドイツだけだ.地域にかたよりなく地球全体を意識して考えるようつとめてはいるけれど,外国暮らしの経験がかぎられている事情や人種や国籍ゆえに,多くの問題点を見逃してしまいがちだ.
文化面では,ぼくは折衷的だし,相反する趣向をもっている.トーマス・フランクやジュリエット・スカーといった人たちが書く反しょうひ主義の本をたのしむ一方で,『エコノミスト』誌や『ワイアード』誌も購読している.Ani DiFranco や Tori Amos のような左翼的・革新的・フェミニスト的な音楽をたのしむ一方で,実業界をものすごく尊敬しているし,日々の暮らしに欠かせない生活用品や贅沢品や娯楽を提供してくれている労働者・経営者・投資家たちに感謝している.プリウスが存在するのはすばらしいことだと思う一方で,自分が運転しているのは戦車みたいなランドクルーザーだったりする(し,アルバカーキでみんなが乗っている車をみるかぎりでは, 読者にもそういう人がきっといるはずだ).モールなんてきらいだけれど,自由市場はこれまで発明されてきたなかでも最高に創意あふれるシステムだと思って尊んでいる.平和・自由・自律のそろった条件下で貿易・交換から人々がお互いに利益をひきだして楽しめるようにしてくれる,すごいシステムだ.先進国の企業ロビイストが民主主義を腐敗させているやり口をにくんでいるけれど,歴史をふりかえれば重労働と抑圧と貧困と病気と死がありふれているなかで,先進国の生活の質が幸運で脆弱な例外だということも認識してはいる.
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