つづき:
【マズローをこえて】
Beyond Maslow消費者としてじぶんたちがどうふるまっているか理解したければ,じぶんたちが配偶者や友人や家族の助けや地位をめぐって競い合う社会的霊長類として進化したことを思い出すとはかどる.20世紀の大半にわたって,心理学者たちはこんな風に想定していた――「この生物学的な遺産がもたらしたのは生き延びて生殖するという一握りだけの単純な直観だけであって,他のすべては学習と文化による.」 ジークムント・フロイトもジャン・ピアジェも B.F.スキナーも,偉大な洞察を残したとはいえ,ダーウィンの遺産を人間心理の研究に統合することはなかった.このダーウィン化が進んだのは,ようやく1990年ごろになっての話で,進化心理学の分野ではじまり,人間本性は単純な本能をほんのいくつか並べただけのリストにとどまらない,もっと豊かなものだという展望をひらいた.
進化心理学の射程は,ぼくらが慈しんでやまないあらゆる能力と欲求におよび,友情や愛情や家族や社会的地位や自尊心や道徳的価値や誠実さがどうしてこんなにも重視されるのかを説明してみせた.進化心理学は,たんに「セックスは売り物になる」理由にとどまらない説明をやってみせる.それに,共感や外向性が性的な魅力になる理由も説明してくれる.持ち主の人気のほどを物語る携帯電話* をみんなが買い求める理由も,飼い主の優しさや良心を物語るペットを購入する理由も説明してくれる.人間の欲求といえば,1950年代にエイブラハム・マズローが考えた「欲求の階層」(hierarchy of needs) が人間の動機に関する支配的なモデルとして消費者行動の教科書にのっている.だが,マズローの言う欲求の階層よりも人間のいろんな動機ははるかに詳しく微妙な色合いをもち一定の原則で一貫しているということを,進化心理学は実証してみせた.
マズローの階層に含まれる人間の欲求はたった7タイプしかない.この7タイプは大きく2つの範疇にわかれる.1つめの範疇は「不足による欲求」(Deficiency needs) で,不快な状態や不足を減らしたいという原動力となる.この欲求は,不足があるときにしか追求されないとマズローは言う.この範疇には次のタイプがある:
評判の欲求: 承認,地位,名声,栄誉,自尊心,自己評価
- 生理的な欲求: 呼吸する,ものを飲む,ものを食べる,排泄する,体温を調節する,セックスする
- 安全の欲求: 健康,幸福(厚生; well-being),親しみ,状況の見通し [predictability],我が身の安全,金銭的な安全,保険
- 社会的な欲求: 家族,友人関係,親密な交わり,性的な愛,所属,世の中に受け入れられること
もう1つの範疇は「成長の欲求」(Growth needs) といって,「自分を超越すること」に向かう欲求があって.どんなときでもそうする自由があるときには,人々はそれぞれにこの欲求を追求するとマズローは言う.こちらにはこんなタイプがある:
- 認知的な欲求: 学習すること,探索すること,発見すること,創造すること,知識を獲得すること,知性を向上させること
- 美的な欲求: 自然や人々や人工物に見いだされる美を経験すること
- 自己実現の欲求: じぶんの潜在能力を引き出して,能力を最大限に活用すること
*いまなら「スマートフォン」かな.
0 件のコメント:
コメントを投稿