2016年11月17日木曜日

ミラー先生の『消費』のサンプル訳をつくってみよう (16)

つづき:
企業の管理職たちはいまだに MBA プログラムで訓練されているし,市場調査員たちはいまだに Ph.D プログラムで訓練されている.まるで,「人間なんて8000年前に年度からつくりだされて,「意識的動機」と「潜在的動機」を思いつきで並べたリストを使って設計されたんだ」とでも思っているかのようだ.人間行動と好みの進化論的な起源に関して抗議で教えられるようなことが,まったくといっていいほど,世界有数のビジネススクールの教授内容に入っていない――IMD(ローザンヌ),NSEAD(パリ),ESADE(バルセロナ),ロンドンビジネススクール,ロッテルダム経営大学院 (Rotterdam School of Management),インド経営研究所(Indian Institute of Managemenent; バンガロール),クイーンズ・スクール・オブ・ビジネス(トロント),ハーバード,スタンフォード,MIT(すローン),U.ペン(ウォートン),ニューヨーク大学(スターン),ノースウェスタン(ケロッグ).これまでのところ,ダーウィンの洞察を体系的に活用して消費者行動の理解に役立てた研究者はほんの一握りしかいない. 
1990年代いらい,モントリオールにあるコンコルディアビジネススクールのマーケティング研究の教授 Gad Saad はほぼ独力で進化消費者心理学の新分野を開拓してきた.マーケティングや消費者行動をあつかう学術誌で進化心理学に関する論文を最初に投稿したのも彼だし,この主題について2007年に単著『消費の進化論的基板』を出版したのも彼だ. 
1980年代中盤から,コーネル大学の経済学者ロバート・フランクは社会的競合・性的競合の進化論的な原理をもちいてもっと具体的な問題を理解しようと試みてきた.たとえば,見せびらかし消費や経済的地位追求がとめどなく進む現象といった問題だ.彼がこれまでに書いた本には,『****』(Choosing the Right Pond),『ウィナー・テイク・オール』(The Winner-Take-All Society),『****』(Luxury Fever) がある.どれも,たんにダーウィンとヴェブレンをつないで人間の経済行動を生物学の文脈でとらえなおす仕事であるだけでなく,経済データを分析する新しい実証方法を開拓して,キャリア選択や消費者選択でいたるところに見られる地位追求の効果を実証してみせている.(ロバート・H・フランクを,『****』(Richistan) の著者ロバート・L・フランクと間違えないようご注意を.) Gad Saad とロバート・フランクによる先駆的業績に本書は多くを負っている. 
もっと近年では,他にもわずかながら新たな研究者が加わってきた.たとえば,ミネソタ大学の Vladas Griskevicius やヒューストン大学の Jill Sundie といったマーケティングの教授たちが登場して,進化論的な消費者心理学を新しい方向に展開し,社会心理学ともっと密接に統合している.また,これも少数ながら,進化心理学者のなかには,特定の製品種に関連させて人間本性を考察している人たちもいる.彼らがとりあげているのは,たとえば,食品・ペット・警官・新聞の三行広告・医薬品・ポルノ・小説といった具体的な製品群だ.どの事例でも,進化論的な起源・生物学的な機能・ヒトの心理学的な適応の設計特性(たとえば知覚・情動・好み)をもっと明瞭に理解することで,研究者たちはいろんなモノやサービスの「快楽の仕組み」(hedonomics) を――快楽をもたらす設計特性を――もっとよく理解できるようになる.


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