2017年9月9日土曜日

「あばずれ叩き」と共有地の悲劇

「午前中」の時間指定でお願いしていたのになかなかこない配達を待ちながら,マックス & ミラーせんせいズのモテ本でマーカーをつけたところをなんとなく見返している.
男連中なら知ってのとおり,男性どうしの競争戦術のなかには,おろかで馬鹿げてるものもある.そこは女性も変わらない.キミが本書を読んでいるくらい賢明な人なら,キミの相手にふさわしいくらい賢明な女性だって,女性どうしの競争にあるいろんな馬鹿馬鹿しい部分をあらかた理解してる.アホな男どもにキミがげんなりしてるのと同じように,彼女たちだってアホな女にげんなりしてる.だけど,べつに尊敬もしてない男どもからの社会的な賞賛を手に入れようとキミが模索してるのとまったく同じように,女性たちだってべつに尊敬してない女連中から社会的な賞賛をえようとしてる――で,そんなことをこれほどまでに本能的に気にかけてしまっているじぶんにあきれてしまうことだってよくある.
 でも,男女の類似点はこれで打ち止めだ.女性が社会的にうけやすい打撃は男性とずいぶんちがう.平均で見ると,体育が苦手だったりケンカが弱かったり稼ぎがショボかったりしても,女性は男性ほど心配しない.だが,知人・同僚・家族・ご近所でのじぶんの性的な評判についてはとても気にする.具体的には,現代社会におけるあばずれ叩きがじぶんの評判におよぼす,実存をゆるがすほどの脅威を心配してじりじりしている.
 こと,あばずれ叩きとなると女性はおたがいに容赦ない.1人の女性の社会生活をまるごとつぶしたければ,彼女のことをろくに知らない人たちによって交友メディアにセックスにまつわる意地の悪い噂が流れればこと足りる.大学を卒業するまでに,やれ「あの子はあばずれだ」だの「売女」だのと言ったネタで他の女性たちについて女性どうし非難やからかいの言葉を交わしているのを(教室で,学生寮で,女子寮で,職場で)何年にもわたって耳にすることになる.誰かとタイミングのわるい一夜限りの関係をもったり無思慮な友達とつきあって見返りをもらったりしたときにどれほどの不安を覚えるか,想像してみよう.女性によってはすっかり思考が麻痺してしまうほどだ.
 一人の男性として,というか社会のまっとうな一員としても,次の点はぜひとも理解しておきたい――女性のあばずれ叩きは,深い自己嫌悪や集団内嫌悪の産物ではないんだよ.そうじゃなく,これほど広くあばずれ叩きが見られるのはなんでかって言うと,いいボーイフレンドを手放さずにおきたい女性にとって好色なライバルは最大の脅威だからだ.「あばずれ」が叩かれ軽蔑されるのは,べつに女性たちが「あばずれ」たちの性欲のありように居心地悪さを覚えているからじゃない.「あばずれ」たちが恋人探しの手練れだからだ.これは,大半の女性にとってほんとに差し迫った脅威になる.そのため,女性がキミとの短期的なお付き合いを考えているとき,同時にこんなことも考えてるものだ――「学校や職場で誰かに嗅ぎつけられたりしないかな?」とか,「週末にママと Skype でおしゃべりしてるとき,この件でどんな気分になるだろう?」
 女性が好色にふるまうのは,恋人探し市場で「共有地の悲劇」効果ももたらす.ある女性が2回目のデートでフェラしてあげようかともちかけたら,他の女性たちがとびっきりのご褒美として4回目のデートまでとっておくのが難しくなる.これにより,もっとたくさんのセックスをもっとたくさんの男性にもちかけてやらないと恋人探しゲームにとどまれなくなってしまう下方スパイラルがうまれる.この点で,あばずれ叩きは他の女性たちにもっと厳しい性的規範を強制することで,べつにあらゆる女性が本人ののぞむ以上に好色に振る舞わなくてすむようにする方法となっている.
 かくして,あばずれ叩きは女性の情動の根っこにまで深くしみついて,自尊心を手ひどく痛めつけ,損なう.だからこそ,よほど自信と性的経験をたっぷり持っている人でもないかぎり,たいていの女性は一晩かぎりの情事をおえた翌朝に,じぶんのことを立派に思えなくなってしまうんだ.一度きりの情事を終えた朝に歩く家路を女性たちが「恥辱の道」と呼ぶのにも理由があるわけだよ.
 あばずれ叩きのリスクをふまえたうえで典型的にとられる女性の戦略は,短期的な恋人づきあいをひそかにすすめて,知らぬ存ぜぬをとおす余地をたっぷり用意しつつ,適応的な自己欺瞞や状況による合理化を図ることだ.気軽なセックスをしても信用できる言い訳が用意できるならあばずれ呼ばわりのリスクを低減できる――「誕生日だったの」「すっかり酔ってたから」「春休みでついつい」「だってジャマイカでのことだし」「前からずっと彼の文章に心酔してたから」などなど.
(Tucker Max & Geoffrey Miller, Mate: Become the Man Women Want.) 

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