2015年3月8日日曜日

クルーグマン「NAIRU の制約とクロムウェルの規則」

Paul Krugman, "The NAIRU Straitjacket and Cromwell’s Rule," The Conscience of a Liberal, March 6, 2015.

要点だけを抜き出しておこう:
  • 新しい雇用レポートをみると,インフレ率を加速しない失業率 (NAIRU) の推定値近くにまで失業率が下がってきている.
  • だけど,この推定値をあまり真に受けすぎない方がいい――たとえば,1994年頃にも NAIRU 近くにまで失業率が下がったけれど,当時の連銀議長グリーンスパンたちはしばらく様子をみて,実際にインフレ率が上がっているという証拠がでるのを待った.結果は,失業率が4パーセントを下回るところまで行ったけれど,そのときインフレが急進するようなことはなかった.もしもあのときグリーンスパンたちが NAIRU の推定をもとに引き締めに回っていたら,この好ましい状況はフイにされていたことだろう.
  • また,かりに NAIRU が本当に 5.4 パーセントで,金融政策の引き締めが遅れたとしても,そのコストは巨大にはならない.他方で,時期尚早な引き締めをやってしまったら,流動性の罠にはまって苦しんでいる日本や欧州中央銀行やスウェーデンの轍を踏むことになる.
  • 連銀の政策担当者におかれましては,ぜひ,賢明な判断をお願いします.

NAIRU の推定値を過信しないようにと述べた箇所をいちおう訳しておく:
《Fed には,ぜひとも1990年代のことを思い出してほしいと思う.1994年頃,いっけん頑健そうな研究に基づいて NAIRU は 6パーセントくらいだと広く信じられていた.だが,グリーンスパンら一同は,実際にインフレ率が上がってくる証拠を待つことに決めた.その結果どうなったかっていうと,雇用は長らく伸び続けて,インフレが急進することもなく失業率は 4パーセントを下回るところまでいった.もしもグリーンスパンたちが NAIRU の推定値を目標にしていたらどうなっただろう.それまでの何兆という産出をフイにするばかりか,さらに,〔高まった需要に対して供給の〕きびしい労働市場から得られるありとあらゆるいいこともフイにしていたことだろう.》
タイトルにある「クロムウェルの規則」(Cromwell's rule) は,はじめて知った.
I beseech you, in the bowels of Christ, think it possible that you may be mistaken.(キリストのなさけ[はらわた]において懇願する,キミが間違っているかもしれないと考えてくれたまえ)

追記:さらに次のエントリでも NAIRU を取り上げている:
追記2: 『ニューヨーク・タイムズ』コラムでも取り上げて「利上げには早い」と論じている:



0 件のコメント:

コメントを投稿