2021年1月4日月曜日

「信念・予測をどんどんモヤっとした用語で再定義させていったあげく,ついには証拠を必要としない信条の問題になった」

 プラックローズ & リンゼイ『シニカル理論』の第6章から(kindle版):

ポストモダンに流れる前,マルクス主義理論・社会主義理論・急進的フェミニスト理論は,こう考えていた――権力とは,家父長制的で資本主義的な社会で力ある男性たちがとる意図的なトップダウンの戦略だ.ところが,第二波フェミニズムの進展により,こうした権力の考え方は,いくぶん冗長になった.家父長制的な考えをもった横柄な男性たちは相変わらず存在していたものの,「西洋社会はまぎれもない家父長制社会だ」という考えや,「大抵の男性は女性が成功しないように共謀している」という考えは,ますます維持しにくくなっていた.「男性支配が存在する」「男性支配は自分に都合がいいように女性を犠牲にしている」―――そうした信念と予測を変わらず維持する機会を,ポストモダン理論がもたらした.その信念・予測をどんどんモヤっとした用語で再定義させていったあげく,ついには証拠を必要としない信条の問題になった:社会的構築,言説,社会化.みんなの何気ない言語使用をとおしていたるところでみんなにたえまなく作用している権力ダイナミクスの格子というフーコー式の考えは,この要求仕様にぴったりはまった.

Postmodern Theory offered an opportunity to retain the same beliefs and predictions -- male domination exists and serves itself at the expense of women -- while redefining them in terms diffuse enough to be a matter of faith, requiring no evidence: social constructions, discourses, and socialization. The Foucauldian idea of a diffuse grid of power dynamics that constantly operates through everyone through their unwitting uses of language fit the bill perfectly. [*25] 


脚註 [25]:

この新しいフェミニスト思想の路線でこれによく当てはまる例が,賞を受け影響力ある著作『ひれふせ,女たち』だ.著者はコーネル大学哲学教授ケイト・マンで,その主張によれば,ミソジニーは社会の体系的特徴だと理解するのがいちばんよいのだという.実際のミソジニスト(女性を憎む人々)がまれにしか存在しないかまったく存在しないとしても,その体系的特徴により女性の劣位が社会的に強制されているのだとマンは言う.
A fitting example of this new line of feminist thought is the award-winning and influential book Down Girl: The Logic of Misogyny, by Cornell philosophy professor Kate Manne, who argues that misogyny is best understood as a systemic feature of society, by which women's inferiority is enforced socially, even if actual misogynists are rare or nonexistent. See Kate Manne, Down Girl: The Logic of Misogyny (New York: Oxford University Press, 2018). 

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