この例を考えてみよう:
On the final day of my sophomore year of high school, I was hit in the face with a baseball bat. As my classmate took a full swing, the bat slipped out of his hands and came flying toward me before striking me directly between the eyes. (James Clear, Atomic Habits)
いちおう訳しておくと:
高校2年生の最後の日に,ぼくは野球のバットで顔面を痛打された.クラスメートが打席でバットをフルスイングしたとき,バットが彼の手からスルッと抜けてぼくの方に飛んできて,そのまま眉間を直撃したんだ.
この訳文では,出来事の順序どおりにその表現が並んでいる.つまり,「フルスイング→バットが手から抜ける→眉間直撃」という順序になっている.元の英文も同様だ.文を読み進めれば,その順に出来事が起きていく.
でも,この引用文で太字にした箇所は before の句だから,なにも考えないと「眉間を直撃する前に」と訳したくなるかもしれない.すると,前後はこんな訳文になるだろう:
クラスメートが打席でバットをフルスイングしたとき,眉間を直撃する前にバットが彼の手からスルッと抜けてぼくの方に飛んできたんだ.
これでは,出来事の順序と表現の順序が対応しなくなる.しかも,それによってなにか文章にいい効果が出てきているわけでもない.
この英文で before を使っているねらいは,最後に起きた出来事を文章の最後にもってくることにあるのだとぼくは思う.そういうときには,ねらいに合わせて訳文も同じようにしてあげた方がいい.
下記の歌でも,before を繰り返し使いながら,出来事の順序と表現の順序を合わせている.ただ,こちらでは before が独特な効果を上げているようにぼくは思う:
The telephone's not answered
So many times you'll call
For many different reasons
So many tears will fall
Before you find your love
Before it comes knocking at your door
Before you know for sure
This is what you were waiting for
- 関連:昔,旧ブログで書いた話…「メモ:ちょっとした翻訳処理の TIPs: 情報提示の順番を保とう」
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