2018年9月3日月曜日

「さもなくば」の 'OR': 言外に補われる分岐がおもしろい

みなさんご存じのとおり,「~した方がいいぞ,そうしないとこうなるぞ」と伝えるときに,こういう風に OR を使える:

  • "We need some agreement about facts or the situation is hopeless." 「事実についてなんらかの合意が必要だ,さもないと状況は絶望的になる」 (Tim Harford)
  • "She had to have the operation, or she would die."「彼女は手術を受けるしかなかった,そうしないと死んでしまうのだ」 (Collins COBUILD)
  • "Turn the heat down or it'll burn." 「温度を下げろ,さもなくと燃えてしまうぞ」(Oxford Learner's Dictionary

(下線・太字は引用者によるもの)

この用法が面白いのは,下線を引いた箇所が表す状況が実現されなかった場合の帰結を OR 以下で示すところだ.これは,ふつうの OR とずいぶんちがう.たとえば2つ目の例文をもしも単純な選言「PあるいはQ」で解釈したなら,「彼女には手術を受けねばならなかったか,あるいは,彼女は死んでしまっただろう」という意味になる(余談ながらここで "she would have died" と仮定法過去完了にしていないところが興味深い:この言い方ができるのは,彼女が死ななかったのを知っている視点だ)――でも,もちろんここではそんなことを言おうとしてるわけじゃない.

「さもなくば」の意味で解釈すると,「彼女は手術を受けねばならなかった」のをふまえたうえで,実際に手術を受けるケースと受けないケースが暗黙に対比され,さらに,それぞれの帰結も対比される:「手術を受けなければ死んでしまう」(含意:手術を受ければ死なない).下のらくがき図解をみてほしい:



この場合,どちらか片方だけが成り立つ排他的関係になっているものが2ペアある.1つ目の排他的なペアは「手術を受けるか,受けないか」だ.そして,それぞれの帰結が2つ目の排他的なペア「死なないか,死ぬか」をなす.「さもなくば」の例文で言葉で明示している事態は,図のなかで二重線で示してある.手術を受けねばならなかったという事態と,死んでしまうという事態の2つだ.あとは,この例文を理解する際に暗黙に補われている.

0 件のコメント:

コメントを投稿