2013年9月14日土曜日

クルーグマン『そして日本経済が世界の希望になる』(PHP新書,2013年)

出たので読んだ:クルーグマン『そして日本経済が世界の希望になる』(PHP新書,2013年).「アベノミクスの金融政策・財政政策は正しい,いいぞもっとやれ」という話を中心に,日本の各種制度についての提言や,今後の世界経済の展望なども語った一冊.日本オリジナル版.

[1] 本のなりたち:訳者でもある大野氏によるロングインタビューとメールでの質疑応答をもとに,語りおろしによる全5章の論述に構成されている.

[2] 骨子はきわめて明快だ――安倍政権が掲げる経済政策のうち,(1) そもそもクルーグマン自身が推奨していたインフレ目標政策は有効だしできればインフレ率4%くらいが望ましい;(2) 財政政策は「その積極的な拡大を行う必要がある」(p.39);しかし (3) 構造改革は重要でない:「為政者は誰もが構造改革を約束するが,そうした態度自体を私は疑っている」(p.48).(それぞれの論拠と,よくある異論に対する批判は,自分で確認してね.)

[4] ついでながら,(2) の財政政策については,研究の進展を経て,かつてと意見を変えたことをはっきりと述べている.

[5] また,直近の争点である消費税増税には明快に反対している:「日本に対してIMFやOECDはしきりに消費増税の実施を要求しているが,いったい何を考えているのか,私には理解できない」(p.129).97年の橋本増税は失敗したじゃないか.また,歴史をみれば,債務比率が高かった国,たとえばイギリスは,かつて債務がGDP比200%を越えていたのが70年代には50%にまで下がった.痛みに耐えて財政再建にはげんだのではなく,「穏やかなインフレと経済成長を両立させながら,少しずつ均衡策を実施していった」「ここに,日本が参考にすべき手法がある」(p.127).

[6] 訳文について:大野氏による翻訳は,じゅうぶんに自然に読み進められる文章にしあがっている.おなじみの山形浩生式のカジュアル文体とはちがうので,ぼくのように少し惜しむ読者もいるだろうし,逆に,かえって読みやすいと感じる人もいるだろう.

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