2015年2月17日火曜日

クルーグマン「エーゲ海のワイマール」(2015年2月16日付コラム)

クルーグマンが『ニューヨーク・タイムズ』のコラムで,ギリシャに過大な債務返済を強制するのは第一次大戦後に敗戦国ドイツに巨額の補償金を払わせようとしたのと同様の愚行だと論じている.
Paul Krugman, "Weimar on the Aegean," New York Times, February 16, 2015.
以下,コラムをざっとなぞってみよう.引用部以外は翻訳ではないのでご注意を.

不況のいまは,財政刺激と金融緩和政策を打つべきだと主張すると,きまってワイマール時代のドイツを持ち出して反論する人たちがでてくる.「財政赤字と金融拡大をするとハイパーインフレになるぞ,ワイマールが実物の教訓じゃないか」と彼らは言う.

ところが,1923年のハイパーインフレよりもずっといまの状況に関連してる1930年代前半のデフレのことがすっぱり忘れ去られてる.当時,ブリューニング政権は間違った教訓を学んで金本位制ときびしい緊縮策をやろうとした.

以下,第一次世界大戦後の補償金支払い要求と,現在のギリシャに対する債務返済要求が,経済へのインパクトという点で類似してるっていう指摘が続く.
《補償金の話:あらすじはこんな具合だ――イギリスとフランスは,新規発足した民主制ドイツを潜在的なパートナーと考えずに,征服された敵として扱い,じぶんたちの戦時の損失を埋め合わせろと要求した.これはとことん無思慮だった.それに,対独要求は,とてもじゃないけど達成しようがなかった.理由は2つ.第一に,ドイツ経済はすでに戦争でズタボロになっていた.第二に,ケインズが『平和の経済的帰結』で怒りをこめて説明してるように,ただでさえ縮小していたドイツ経済が化せられた真の負担は,復讐心に満ちた連合国への直接の支払いよりはるかに大きかった.》
戦争でボロボロになっていたドイツはケツの毛まで抜いても連合国側の要求をとうてい満たせるわけがなかったのに,どうにかして補償を払わせようという試みがなされた.フランスにいたっては,あろうことかドイツ産業の中枢であるルール工業地帯に侵攻してこれを占拠してしまった.こうした試みによって,民主制ドイツの経済活動はいたみつけられたし,近隣諸国との関係に禍根を残してしまった.

他方,現在のギリシャはどうだろう.「責任もない貸し手たちからたくさん助けてもらったにも関わらずギリシャは自業自得で問題をしょいこんだんでしょうに」という意見もあるだろう.しかし――
《現時点の単純な事実として,ギリシャは債務の満額返済なんてできない.緊縮によって,ギリシャ経済はとことん打ちのめされてしまっている.ちょうど,戦争に負けたときのドイツと同じ状態だ――ギリシャの一人当たり実質 GDP は,2007年から2013年にかけて26パーセント減少した.ドイツは1913年から1919年にかけて29パーセント減少している.》
それでもギリシャは基礎財政収支を黒字にして債権国に返済している.黒字額は GDP のだいたい 1.5 パーセントに当たる.ギリシャの新政権はこれくらいの返済は続けるつもりがあるけれど,他方で,「この財政黒字額を3倍にして,それをこれから長年にわたって続けろ」という債権国の要求にしたがうつもりはない.
《ギリシャがそんな巨額財政黒字をひねりだそうとしたら,なにが起こるだろう? 政府支出はさらに切り詰めなくちゃいけなくなる――だけど,それで話はおしまいじゃない.これまでの支出削減ですでにギリシャはきびしい不況に陥っている.さらに削減すれば,いっそう不況は悪化する.ところが所得が減れば,税収も減る.すると,当初の支出削減よりも負債返済額は減ることになる――おそらく,半分以下になるだろう.それでも目標を達成しようとすれば,ギリシャはいっそうの削減を余儀なくされる.あとは堂々巡りだ.
さらに,経済が縮小を続けていけば,民間支出も減少することになる――これも,緊縮の間接的なコストだ.
まとめると,債権国の要求通りにさらに GDP の 3 パーセントをしぼり出そうと試みれば,ギリシャが払うコストは GDP の 3 パーセントどころじゃすまずに,GDP の 8 パーセントくらいになってしまう.思い出してほしい.史上最悪の不況にこれが覆い被さるかっこうになるんだよ.》
じゃあ,ギリシャが「とにかく払えません」と突っぱねたらどうなるだろう? むかしのフランスみたいに軍隊を使って借金を取り立てるようなマネは,いまの欧州諸国はやらないだろうけど,強制する方法なら他にだってある――
《周知のとおり,2010年に欧州中央銀行は「IMF のプログラムに合意しないかぎり,アイルランドの金融制度を崩壊させるぞ」という趣旨の脅迫をやった.》
――いまの欧州中央銀行がそこまでバカじゃないといいですね(大意).
《ともあれ,欧州の債権国はここで柔軟に対応した方が――ギリシャに景気回復のチャンスを与えた方が――じぶんたちの得になるってことを理解すべきだ.左派新政権のことがお気に召さないかもしれないけど,正規の手続きで選ばれた政権だし,これまで耳にしたことから判断して,政権の指導者たちは民主主義の理想をウソ偽りなく奉じている.欧州は,輪をかけて悪化しうる.債権国が復讐にでたら,きっと悪化する.》

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