2014年8月19日火曜日

メモ:クルーグマン「なんで戦争なんかやっちゃうのか」(2014年8月17日)

今日の『ニューヨークタイムズ』コラムで,クルーグマンがウクライナ情勢を中心に戦争の要因について述べている:

とくに現代で戦争はまったく割に合わないのだが,それでも戦争は起こっている.なぜだろう? クルーグマンが挙げるのは,国民全般の利益には完全に反していたとしても,戦争によってときの政権は大きな支持獲得ができる,というインセンティブだ.とくに経済不振のもとで,そこから国民の注意をそらすはたらきがあり,これは政権にとって大きな誘惑になりうるとクルーグマンは論じる.また,コラム末尾では,中国について懸念を述べている.

以下,かるく文章をなぞっておく:

「すべての戦争を終わらせる最終戦争」と呼ばれた第一次世界大戦から1世紀がたった.だが,戦争は起き続けている.ウクライナ情勢はますます悪化している.

かつて,戦争は楽しみと利益のためになされた.ローマの小アジア征服やスペインのペルー征服がそうだ.同じことは,いまでも見られる.ポール・コリアによれば,内戦をいちばんよく予測する要因は,ダイアモンドのような略奪可能な資源があるかどうかだという.これは,とくに貧困国で顕著だ.工業化以前の世界では,戦争はヤクザのシマ争いみたいなものだった.

だが,現代の豊かな国では,たとえ勝利の戦争であろうと,戦争は割に合わない.1910年にジャーナリストのノーマン・エンジェルが指摘したように,「軍事力は社会的・経済的には無益」だ.相互依存の強まった世界では,勝者ですらとてつもない経済的損害を余儀なくされる.さらに,洗練された経済から金の卵を奪い取ろうとしても,必ず,その卵を産む鳥を殺すことになってしまう.

それに,現代戦争はすっごく高くつく.イラク戦争は1兆ドル以上ものコストがかかっていると推計されている.

ひとつには,指導者たちには算数ができないというのもあるかもしれないね,とクルーグマンは言う.戦争によって富を得るという発想は,20世紀初頭でもまだまだ根強かった.また,ウクライナ政府転覆は安上がりにできるとプーチンが考えていたというのは,大いにあり得る話だ.

たとえば,ブッシュのイラク戦争.前述のとおり,おそろしいコストがかかってしまったにも関わらず,当初はサダム体制打倒と新政権樹立のコストは500~600億ドル程度とされていた.

だが,それよりもっと大きな問題がある.それは,国民に利益という点ではまったく意味をなさないとしても,そのときどきの政権は,戦争から政治的に得るものがある場合が非常に多いという点だ.

『ハーバード・ビジネス・レビュー』のジャスティン・フォックスによれば,ウクライナ危機の根っこは,ロシア経済の不調にあるかもしれないという.プーチンの権力維持が堅固なのは,急速な経済成長が長く続いていることを反映している部分もあるだろう.だが,ロシアの経済成長は,このところガタツキをみせている.プーチン政権にはなにか国民の注意をそらすネタが必要だったとは言えるだろう.

これと同様のことは,政権にとっての政治的な利得を考慮しなかったら,まったく意味をなさないような戦争についても主張されている.たとえばアルゼンチンのフォークランド侵攻 (1982) がそうだ.経済面の失態から国民の目をそらそうと当時の軍事政権が望んだのだと,説明されることが多い(が,公正を期すと,この説明にきわめて批判的な研究者もいる).

いかにばかげた戦争であろうと,フォークランド紛争のあいだ,たしかにアルゼンチンの軍事政権の支持は極度に高まった.イラク戦争はブッシュの支持率を押し上げたし,おそらく,2004年大統領選挙の勝利をもたらした要因でもあるだろう.案の定,プーチンの支持率はウクライナ危機の開始以降から急上昇している.

こうした説明は単純化しすぎているにはちがいない.ただ,いくらかの真実があるのも確かだ.

いちばん差し迫ったところでは,ウクライナ情勢の緊迫を懸念しなくてはいけない.ロシア国民の利益にはとてつもなく反しているが,プーチンにしてみれば,親ロシア武装勢力が瓦解するに任せていては,とうてい受け入れがたいほど面子を失うことになる.
「深い正統性を欠く権威主義的な体制が,もはやすぐれた実績をあげられなくなったとき,示威行動に訴える誘惑に駆られるのだとしたら,中国の経済的奇跡が終わりを迎えたとき,同国の支配者たちが直面するインセンティブがどうなるか考えてみるといい――多くの経済学者たちが信じていることがじきに起こってしまうだろう.」
「戦争を始めようなんてのはすごくダメダメな考えだ.だけど,それでもやっぱり戦争は起こり続けている.」

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