- Angus Deaton and Anne Case, "Rising morbidity and mortality in midlife among white non-Hispanic Americans in the 21st century," PNAS,2015.
ブログで引用しているグラフがわかりやすい:
中年(45~54才)のあらゆる死因を含む 100,000 あたりの死亡数の推移を示している.他のフランス・ドイツ・イギリス・カナダ・オーストラリ・スウェーデンが同じように低下傾向を続けているのに対して,アメリカの白人(ヒスパニックを除く)を示す赤線が上昇を続けている.また,これには労働参加率の低下など,社会的葛藤を示す傾向もともなっているんだそうだ.
これにいちばん近い事例は,共産主義崩壊後のロシアくらいだとコメントを加えつつ,コラムでは,(1) 保守層からのおきまりの批判(いちゃもん)を予想してこれを反駁し,(2) 他でもなくアメリカの主流である非ヒスパニック系白人にこうした傾向がでていることは,アメリカ社会が絶望にふかくとらわれているのではないか,と述べている.
1. 保守層から予想される批判・いちゃもんとその批判
保守派:「リベラルがわるい!」――リベラルどもが気前のいい社会保障なんぞをやるから依存心がのさばり絶望が蔓延する.それに,世俗的ヒューマニストどもが伝統的な価値を損なっている.
ツッコミ:でもこの傾向が現れてるのはアメリカの白人だけで,もっと気前のいい社会保障をやってるヨーロッパの福祉国家には見られない.それに,アメリカ国内でも白人の死亡率が低いのはいちばん社会保障が充実していて伝統的価値観が希薄なカリフォルニアみたいな地域だ.そうそう,いちばん白人の死亡率が高いのは,バイブルベルトだよ.
2. 絶望?
じゃあ,この傾向が,格差拡大や中間層の崩壊にともなう現象かというと,そこまで単純ではないとクルーグマンは言う.とくに目を見張るのは,白人よりもヒスパニック系の方がずっと貧しいのに,死亡率ではちがった傾向を見せている点だ.じゃあ,いまアメリカでなにが起きてるんだろう?著者の一人であるディートンがインタビューで語った言葉をクルーグマンは引用している:アメリカの中年白人たちは「じぶんの人生の物語を喪失している」のではないか.アメリカンドリームを信じる階層に生まれ,もっとうまくやれるはずだと思っていたのに,その期待に届かないでいることでうちひしがれているのではないか.
In a recent interview Mr. Deaton suggested that middle-aged whites have “lost the narrative of their lives.” That is, their economic setbacks have hit hard because they expected better. Or to put it a bit differently, we’re looking at people who were raised to believe in the American Dream, and are coping badly with its failure to come true.もっともらしい仮説だとじぶんも思うけれど,正直なところ,アメリカで絶望が広がっている理由はよくわからないとクルーグマンは言う.
苦境にあえぐアメリカ人にとって,国民皆健康保険・最低賃金引き上げ・教育補助などは大いに助けになるだろうけれど,それでこの病を癒すのにじゅうぶんかといえば心許ない
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