以下,訳文:
エリザベス・スペルク:こうした捉え方はものをいうと私は思います.親として,じぶんが息子も娘も心から平等に扱おうとしている方もいるでしょう.でも,不安がっている子供と怒っている子供をひとしく扱う親はいませんよね.子供を男の子だと思っているか女の子と思っているかで大人が子供をどう捉えるかちがってくるのだとしたら,男の子と女の子で世間からうける反応はちがってくるでしょうし,受けとる励ましのパターンもちがってくるでしょう.息子も娘も同じように扱おうと誓っている親ですら,こうした捉え方はものをいいます.
性別ラベリング研究をあともう1バージョンだけ紹介します.こちらの研究は,とくに核心にせまっています.被験者となったのは,スティーブや私のような人たち,つまり心理学教授たちでした.被験者たちには履歴書が送られ,応募者がテニュアトラックにふさわしいかどうかを審査します.この研究では,2つ別々の履歴書が用いられました.一方は,見たこともない奇跡のような最高の候補者の履歴書で,もう一方は有望な候補者の平均的な履歴書です.教授たちの半分には,履歴書の名前を男性名にして送り,もう半分には女性名で送ります.そして,こう質問します:「この候補者の研究の生産性についてどう思いますか? 教育経験はどうでしょうか? そして最後に,この候補者をご自分の大学で雇いたいと思いますか?」
奇跡のような候補者では,こうした判断に性別ラベリング効果は見られませんでした.この発見は,私たちが大学で問題にしていることはあからさまな差別とほぼ関係がないというスティーブの見解を支持すると思います.べつに,教授たちは履歴書が女性の名前なのをみたとたんに「彼女はいらない」と思うわけではないんです.履歴書がすばらしいときには,誰もが「すばらしい,よし雇おう」と言うんです.
平均的な有望候補の履歴書ではどうでしょうか? つまり,教授たちがいちばん頻繁に評価対象にする種類の履歴書ではどうでしょう? 男性の方が,研究の生産性でまさると評価されました.心理学者たち,つまりスティーブや私の同僚たちは,同じ数の研究業績が履歴書に並んでいるのを目にしながらも,男性名のときには「この人は生産性にすぐれている」と思い,女性名のときには「それほど生産性にすぐれていない」と思ったわけです.同じことは教育経験にも当てはまります.これまで教えたコースが同じ数だけ並んでいるのを目にしながら,男性名なら教育経験がしっかりしていると思い,女性名のときにはそれほど経験がないと思うんです.この候補者を雇いたいですかという質問に答えて,男性名の場合には70パーセントが「雇いたい」と言い,女性名の場合には45パーセントがそう回答しています.雇うかどうかの意志決定が多数決で決められるとすれば,男性は雇われて女性は雇われない結果になるでしょう.
この研究からは,他に2つほど,面白いことがわかっています.この効果は,女性回答者でも,男性回答者と同じくらい強固でした.ここで容疑者となっているのは男性ではないんです.テニュアの水準でも効果は同様でした.テニュアの水準ではm教授たちはかなり有力な候補者を評価します.そして,ほぼ全員が「これはテニュアを認めるのにとてもよい材料に見える」と言いました.しかし,なにか疑義や保留をつける点はありませんかと呼び水を向けると,彼らはいくらかごく妥当な疑義を口にしました.たとえば,「この人物はとても有力に見えるけれど,彼女にテニュアを認める前に,この研究が彼女じしんのものだったのか指導教員の研究だったのかを確認したいね」といった具合です.なるほどしごくもっともな疑問ですよね.しかし,ここで立ち止まって思案すべきことが1つあります.この種の疑義や保留が表明された回数は,男性名の場合より女性名の場合の方が4倍以上も多かったのです.
このように,人々に広く染み渡ったちがいが〔男女の〕捉え方にはあり,このちがいは物を言うと私は考えます.候補者の質を科学者たちがどう捉えるかによって,候補者が助成金や雇用や研究リソースや昇進を手に入れる確率に影響がでるんです.したがって,性別間の平等を心から誓っている人たちのあいだですら,バイアスのかかった評価があるパターンで生じるわけです.
ここハーバードの我が同僚諸賢のみなさんが,「同等の資格・資質をもつ候補者は男女の別なく平等の雇用機会を与えられるべし」という原則を心から奉じていることに,私はほとんど疑いを抱いていません.しかし,2人の学者を並べてどちらが生産的か,どちらが経験豊富な教員か,どちらがより独立心のある研究者かを比較するときには,こうした要因が物を言うと思われます.ここで紹介した研究からは,ある人物の性別を男女どちらだと思うかによってこうした要因の評価に影響がでて,〔両性を平等に扱おうと考える〕悪意のない人たちですら,あるパターンの差別を生み出すことにつながるのです.
――今回はこれだけ.
続きます.
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