2017年8月8日火曜日

「パフォーマティブ」と言わずに「行為遂行的」って言っておけばいいんだよ

練習問題の解説:意味のすり替えは論証ではないよ」では,「パフォーマティブ」がいつのまにか「発語において約束などの行為をなすこと」から「辞書的な安定した意味に反すること」くらいの別の意味に変わってしまっていることをみた.

おそらく著者じしんも,べつに悪意をもってすり替えたわけではなく,自分ではちゃんと話がつながっているつもりで書いているのだろうと思う.ダメな議論をしているから悪い人だ,なんて話にはならない.


語義を意識しやすい用語を使おう


さて,ああいうふうに意味がいつのまにかズレてしまうのを避けるにはどういう対策がとれるだろう?

「パフォーマティブ」「コンスタティブ」にかぎっていえば,ひとつ有効な手がある:それは,カタカナ語を使わずに,もっと意図する語義が意識されやすい用語を使うことだ.J.L.オースティンがいう "performative" "constative" には,それぞれ次のような定番の訳語がある:

▼「パフォーマティブ」と言わずに――
  • 「行為遂行的(な)」(ナ形容詞/形容動詞)
  • 「行為遂行的発話」(名詞)


▼「コンスタティブ」と言わずに――
  • 「事実確認的(な)」(ナ形容詞/形容動詞)
  • 「事実確認的発話」(名詞)

こうした訳語を使っておけば,言わんとすることが言語行為に関わる事柄なのかどうかを自然と意識できる.「辞書的な安定した意味に反すること」のような語義で使おうとするとすわりのわるいフレーズ・文ができあがるからだ:

e.g.《「男らしさ」「女らしさ」もパフォーマティブ》
→《「男らしさ」「女らしさ」も行為遂行的》(――うn?)

e.g.《繰り返されることで通常の用法を外れたものが伝達されてしまうという言語のパフォーマティブな特徴は,ジェンダーにも当てはめられるとバトラーは考えました》
→《繰り返されることで通常の用法を外れたものが伝達されてしまうという言語の行為遂行的な特徴は,ジェンダーにも当てはめられるとバトラーは考えました》(――うn?)

「でも,その訳語って言語行為論での訳語だよね.デリダやバトラーの方はどうすんの?」――ごもっとも.行為の遂行を意味していない "performative" については,また別の訳語を当てた方がいい.ざんねんながら,ぼくにはこれといって妙案はないけれど,それこそデリダやバトラーに詳しい人たちに工夫して欲しいと願っている.

ともあれ,語義を意識しやすい用語の方が,カタカナ語よりは *いくらか* 意味のズレ・ブレの防止に役立つだろう.

余談の余談: constative の訳語は改善の余地がありそう


さっき定番の訳語を紹介したけれど,"constative" の訳語「事実確認的」「事実確認的発話」は,あまりよい訳語ではないようにぼくは思っている.事実を「確認する」というと,すでにわかっている事実を「なるほど確かにそうなっているね」とあらためて確かめたり,あるいは他人が言ったことが本当かどうかを検証することのような語感があるからだ.

少なくともオースティンの用語としては,真偽が定まりうる主張をなす発話のことなので,たとえば「真偽主張的」「真偽主張的発話」のような訳語がいいのではないかと最近は思っている.(これまでのところは,ぼくも「事実確認的」を踏襲してきたけど)

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