2016年6月6日月曜日

「ジェンダーと科学の科学:ピンカーとスペルクの対論」(16)

スティーブン・ピンカーとエリザベス・スペルクとの対論をちまちま訳してます.前回からスペルク側の主張パートに移りました.

以下,訳文:


まずは,スティーブと私の論争最大の争点をもたらしている問題からとりあげましょう:生まれつき備わった資質のちがいをとりあげます.私じしんの研究と専門知識が関わるのは,この論点しかありません.次に,社会的な力を取り上げます.この点について私はシロウトですが,社会的な力は最大の影響をもたらしていると私は見ています.最後に,生まれもった動機の問題を考察します.この問題は,のちほどの討議でもあらためて取り上げられればと思います.



ここ数ヶ月にわたって,「科学への認知的な資質で男性の方がすぐれている」という論証を3つ耳にしました.第一の論証によれば,生まれたときから男の子はモノや仕組み [mechanics] に関心をもつのに対し女の子は人や感情に関心をもつと言います.世の中にあるいろんなモノの仕組みを探り出そうとする生まれついての性向をもつために,男の子は科学者や数学者になりやすい経路をたどるというわけです.第二の論証では,かつてガリレオが語ったように,科学は数学の言語で行われると想定しています.そして,男性の方が生まれついての性質で数学的推論(空間的推論も含めて)にすぐれていると主張されます.第三の論証によれば,男性の方が女性よりも分散が大きく,その結果として,能力分布の上端で女性より男性の方が多くなっており,そして,この上端の集団から科学者や数学者が世に出てくるのだとされます.以上の主張を1つ1つ見ていきましょう.



第一の主張は,スティーブが言ったように,サイモン・バロン=コーエンの研究をとおして新たに広まりつつあります.古い考えではあるのですが,これが新たな言葉遣いで提示されているのです.バロン=コーエンによれば,男性はモノや機械的な関係について学習するように生得的な傾向が備わっているため,彼が言うところの「体系屋」(systematizers) になる経路に進むのだそうです.他方で,女性は人やその情動について学習するよう生得的な傾向が備わっており,そのため,「共感屋」(empathizers) になる経路に向かうのだと言います.体系化は数学と科学の心臓部にあたりますから,男の子は数学や科学につながる知識や技能を発達させやすいというわけです.

私ぐらいの年齢で,ずっと性差に関する文献を追いかけてきた方なら,これはおどろきの主張に思えるかもしれません.生まれと性差の発達に関する古典的な参照文献と言えば,エレノア・マッコビーとキャロル・ジャクリンによる著書で,世に出たのは1970年代のことです.著者たちは大量の研究を広く渉猟してあらゆる種類の性差の証拠を検討しましたが,男女の性差に関する特定の考えは神話だとも結論づけています.彼女たちが列挙した神話の筆頭は,男性は主にモノに関心を向けるのに対して女性は主に人に関心を向けるという考えでした.彼女たちが大量の文献を調べたところ,赤ちゃんにモノと人を提示してどちらか一方により強く関心を示すかどうか調べた一群の研究がありました.彼女たちの結論によれば,男女でこうした関心のちがいはありません.

しかし,この結論が下されたのは,70年代序盤のことです.当時,モノや人を赤ちゃんがどう理解していて,その理解はどのように生長するのかという点について,あまり多くはわかっていませんでした.バロン=コーエンの主張は,さまざまなモノについて学習する傾向のちがいに関わりますから,そうした主張はマッコビーとジャクリンの時代にはまだ検証されていなかったと論じる余地はあります.では,いまの研究からはなにがわかるでしょうか?



1枚の PowerPoint スライドで,ここ30年にわたる研究のめまぐるしい移りゆきをご案内申し上げましょう.生まれたときから,赤ちゃんはモノを知覚しています.赤ちゃんたちは,モノの境界を知っています.赤ちゃんたちには,私たちほど明瞭にモノが見えませんが,成長するにつれて赤ちゃんのモノ知覚は豊かになり,そして細分化されていきます.

また,視界から消えたときにもモノは存在し続けていることを表示する基本的な能力を,赤ちゃんたちは最初から備えています.そして,成長につれて,そうした存続するモノの表示を保持しておける時間は長くなり,また,いっそう複雑な変化を経てもなおモノが存続することを表示できるようになります.赤ちゃんたちは,モノの移動に関する基本的な推論をします:たとえば,モノを打つ力の強弱によってそのモノが動くスピードが決まるといった推論ができます.こうした推論は,乳幼児期に決まった発達変化を遂げていきます.

こうした事例のどれをとっても,系統だった発達変化があり,また,変異性もあります.この変異性ゆえに,私たちは男の子の幼児と女の子の幼児の能力を比較できます.さて,性差は見当たるのでしょうか? 研究により,明快な答えがでています:性差は見当たりません.

――今回はここまで.

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