2016年8月13日土曜日

変ではない,けどひっかかる「代換法」: an embarrassing number of X

The Verge の記事から用例を採取:
I need a new bag for my computing stuff. Okay, not need per se, since I have an embarrassing number of bags already, each capable of carrying my laptop and camera gear and whatever else I might choose to hoist over my shoulders. 
PCなんかを持ち運ぶのに新しい鞄が必要だ.いやまあ,「必要」ってのはちょっとちがうかな.鞄なんて,もう恥ずかしくなるくらいたくさんもってる.どれを使っても,ノートPCでもカメラ用品でもなんでも好きに突っ込んでヒョイと肩にかけて持ち運べる.
a number of 「たくさんのX」に形容詞 embarrassing が組み合わさって,an embarrassing number of bags という句ができあがってる.

ぼくが「引っかかる」と言ってるのは,べつに誤用だとかって意味じゃなくて,こういう修飾関係が,典型的な形容詞+名詞の修飾とちょっとちがうように思うからだ.構造だけを見れば,embarrassing は名詞 number を修飾していることになる.でも,number がこの記者を恥ずかしがらせるわけじゃない.鞄がとっくにたくさんある有様が恥ずかしいわけだ.言い換えれば,embarrassing が修飾するモノは,number でもなく,まして鞄でもない.こうした単語から話し手・聞き手によって組み立てられる状況をふまえてはじめて形容詞の修飾がちゃんと仕事できるように,ぼくには思える.

修辞学では,こういう修飾関係を「代換法」と呼ぶ.けれど,異例な比喩の問題だと言ってすませると,修飾というものの柔軟性を見誤ってしまうんじゃなかろうか.類例は日常の言語でけっこう見かける気がする.



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