2016年8月24日水曜日

ハリス「くすぐったさの2つのかたち:ニスメーシスとガルガレーシス」


C.R.Harris "Tickling" (pdf) から,「くすぐったさの2つのかたち:ニスメーシスとガルガレーシス」のセクションのみを抜粋して訳す:
英単語 'tickle'(くすぐったさ)が指し示す現象は,少なくとも2つに区別されそうだ.ただ,両者は排他的ではないかもしれない.一方の現象は特有の感覚で,肌を「つー」っと伝うごくかるい動きによって生じるむずがゆい感覚の移動で特徴づけられたりする.このタイプのくすぐりは,体のどの部位だろうと,かるく肌に指をはわせればかんたんに引き起こせる.刺激を加えた後も何秒間にもわたって不快感はつづくことがあり,くすぐられたところをこすったりひっかいたりしたいという強い欲求がうまれることもある(そうすれば不快感が消えるように思えるため).特筆すべき点として,このタイプのくすぐりで人はめったに笑わない.これと対照的に, 笑いを引き起こすにはこれよりも強く圧をかけて脇腹や脇の下を繰り返し触る必要がある.この2タイプのくすぐりの区別は,19世紀の著名な心理学者 G.スタンリー・ホールの『心理医療辞典』(Dictionary of Psychological Medicine) によって1897年に述べられている.ホールと同僚のアーサー・エイリン (Arthur Allin) は,かるいくすぐりを「ニスメーシス」('knismesis'),笑いを引き起こす強めのくすぐりを「ガルガレーシス 」('gargalesis') と呼ぼうと提案した.だが,この両者の区別は,足を考えるとぼやけるように思える.大半の人にとって,足に強い圧を加えられればマッサージの感覚が生じるのに対して,いくぶんかるく触ると笑いが生じることが多い. 
ガルガレーシスの方がニスメーシスよりも謎めいていると言えそうだ.ガルガレーシスとニスメーシスは明瞭に異なっているように思える.第一に,前述のとおり,ニスメーシスは総じて笑いを生じさせない――いくつもの点でくすぐりでなによりも不可解な側面である笑いを生じさせない.第二に,ニスメーシスの感覚は自分でかんたんに引き起こせるが,ガルガレーシスの方は自分で首尾よく引き起こせない(i.e., 自分で自分をくすぐっても笑いはわき起こらない). 
最後に,ニスメーシスの進化論的な機能は容易に想像できる:つまり,不快な感覚が生じると,そのくすぐったい箇所を引っ掻いたりこすったりするよう促され,自分の体を這い回っている昆虫や寄生虫がそこにいればこれを排除できる.

  • C.R.Harris "Tickling." In V.S.Ramachandran (ed.), Encyclopedia of Human Behavior (2nd edition). Academic Press. [Amazon]


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