2016年5月21日土曜日

「ジェンダーと科学の科学:ピンカーとスペルクの対論」(07)

ピンカーとスペルクの議論をちまちまと訳しています.いまはピンカーによるプレゼンの途中.(前回分はこちら



以下,訳文:

ピンカー:3点目,リスク.〔女性と比べて〕男性の方がはるかに無茶をしがちな性別です.
150件の研究と10万人の参与者が関わるメタ分析によれば,リスクをとる行動の16範疇のうち,14で男性の方が多数を占めました.残る2つの範疇では男女が均等になっていましたが,その1つは喫煙です.理由は明白でしょう.男女差がいちばん大きい範疇2つは「知的なリスク行動」と「リスクのある実験への参加」です.こうした性差は日常生活で見られます.とくに,次の範疇でよく見られます:「ダーウィン賞」です.
この賞は,「気高いほどにバカなやり方で遺伝子プールからみずからを除去することによって我々人類という種の長期的生存を確かなモノとしてくれた人々を称えて」授与されます.その受賞者のほぼ全員が――もしかするとほんとうに全員が――男性です.

4点目,3次元の物体を心の中で変形すること:いま表示しているような図形のペアが同じ3次元の形状かどうかを判定する能力のことです.
ここでも,メタ分析を頼りにしましょう.この研究は,286件のデータセットと10万人の被験者を含んでいます.著者たちの結論によりますと,「少なくとも思春期以後でさまざまな年齢層で一貫してきわめて優位な性差を示すテストが多数にのぼることをつきとめた.そして,この性差は近年になっても減少していない さて,さきほど述べたように,空間能力にはさまざまな種類があり,その一部では女性の方がすぐれています.しかし,「心のなかでの回転」「空間知覚」「空間の視覚化」においては,男性の方がすぐれています.



さて,この点が科学での達成になにか関連するのでしょうか? たしかなことはわかりませんが,しかし,関連はあると考えるべき理由は多少あります.

精神測定研究では,3次元空間の視覚化は数学的な問題解決と相関しています.3次元物体の心的操作は,最高に創造的な物理学者や化学者たちの回想や内観の報告に顕著に現れます.たとえば,ファラデー,マクスウェル,テスラ,ケクレ,ローレンスといった人たちは,まずはじめに動的な視覚イメージで発見にいきつき,あとになってから方程式にまとめたと語っています.典型的な内観の報告を1つ引いてみましょう:「円筒のようなものがあり,思考のなかではこれらが要素の役目をしているように思われた.これらは特定の記号で,おおよそはっきりとしたイメージをとり,こちらの意志でつくりなおしたり結合したりできた.この組み合わせの遊びは,生産的な思考の本質的な特徴で,この遊びがやがて言葉やその他の種類の記号を使って論理的な構築物につながる.」 いまの一節は,この有名な物理学者からの引用です.


5点目,数学的な推論.今日の女の子や女性は,数学でも他の科目でも,学校で〔男性より〕すぐれた成績をとっています.また,女性は数学の計算にすぐれています.しかし,一貫して,男性の方が数学の文章題や数学的な推論のテストを得意としています.少なくとも,統計の上ではそうなっています.
ここでも,メタ分析を引きましょう.この研究は254のデータセットと3百万人の被験者が関わっています.
この研究によれば,子供時代には有意なちがいはありません.ちがいが現れてくるのは,多くの二次性徴と同じく思春期ごろです.しかし,青年期・成人後になると,かなりのちがいが見られます.とくに,最上位層の標本に顕著です. SAT の平均的な数学のスコアを一例に引きますと,男性の方が40ポイント上回っていて,これが1972年から1997年までおおむね一貫しています.

Study of Mathematically Precocious Youth 「数学において早熟な若者の研究」という研究があります(この研究では7年生の児童に SAT を受けてもらっています.もちろん,ふつうなら大学進学予定の子供たちしか SAT を受けません).これによると,700点以上をとった子供の比率は,男子 2.8 に対して女子 1 でした.(そして,ここがおもしろい点でもあるのですが,むろん,この比率は20年前より下がっています.むかしは,これが男子 13 対女子 1 でした.その理由は論じる余地がありそうです.) 区切りを760点にすると,今日の比率は男子 7 対女子 1 になります.
さて,このように学校の成績との落差が生じる理由はなんでしょうか?〔女子の方が学校の成績は数学でもすぐれているのにテストでは男子の方が上位層で大多数を占めるのはどういうわけなのだろうか?〕
SAT をはじめとする数学的推論の適正テストは学校の成績を過小に予測しているのでしょうか,それとも,成績が最上位層の適性を過大に予測しているのでしょうか? Radical Forum で,リズ〔・スペルク〕はこの点について旗幟を鮮明にしています.彼女によれば,「テストの出来が悪い」のだそうです.しかし,もしテストがそんなにも使えないしろものだとしたら,どうして科学分野の主要な大学院課程はどこもこれらをいまだに使っているのでしょうか――他でもなくリズやぼくが院生を選んでいるハーバードや MIT の学部も使っているんですよ.

おそらく,宿題と,すでに授業で提示されたのと同じ種類の問題を解く能力が学校の成績に影響している,というのがその答えです.適性テストは,数学の知識を応用してなじみのない問題を解けるかどうかをテストするよう設計されています.そして,もちろん,その方が,数学や科学を実際に *やる* ときの数学の使い方に近いのです.
それどころか,リズの言い分とは反対に,また,多くの知識人に人気のある意見とも反対に,こうしたテストはおどろくほどよくできています.SAT の予測力に関するデータは大量にあります.たとえば,科学分野のキャリアをたどった人たちの大多数は,SAT や GRE の数学テストで 90パーセンタイルに位置していました.また,テストからは次のものも予測されます――収入,職業選択,博士号取得,学位の格式,テニュアトラックに入る確率,特許の数.さらに,この予測力は男性でも女性でも変わりません.
成績の過小予測について言うと――10分の1標準偏差という小幅な過小予測です――〔GREを実施している〕Educational Testing Service はこの現象をちゃんと研究しています.男女で異なる専攻選択と,女性の方がまじめ〔で宿題などをしっかりやる〕という要因の組み合わせによって,このミステリーは解決できています.

――今日はここまで.

続きます

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