2016年5月17日火曜日

「ジェンダーと科学の科学:ピンカーとスペルクの対論」(04)


ピンカーとスペルクの議論をちまちま訳しています(前回分はこちら).

以下,訳文:



ピンカー:最後に,ここで話題にしているのは,統計的な結果です.この点はとても大事ですので,いくらか詳しく説明しなくてはいけません.

女性の登用がもっとも少ない分野であっても,女性が皆無というにはほど遠い状況にあります.性差の説明は,統計的なものでなくてはなりません.ここに,議論全体の試金石があります:

〔スライドに〕ここに2つ,正規分布があります.ベルカーブが2つありますね.X軸は,なんであれ計測対象の能力を示します.Y軸は,その能力をもつ人たちの人数を示します.こんな具合に重なり合うカーブは,どんなものであれ男女で異なる計測値を比べると決まって現れます.この例で言いますと,こちらを男性のカーブ,こちらを女性のカーブとしたら,なるほど平均値は異なっていますが,どの能力水準をとりあげてみても,そこにはきまって男女両性の代表がいます.
こうしてみると,ここ2ヶ月ほどになされた公的な発言の数々は議論のおとりであって統計的分布の性質を理解している人が言うべきことではなかったとすぐさまわかります.言うべきでなかったことには,サマーズ学長に対するこんな非難も含まれます――サマーズ学長は「アメリカの傑出した頭脳の50パーセントは科学の適正を持ち合わせていない」「女性はそんな適正をもちえない」などとほのめかしたというのがその非難です.こうした発言は,統計に無知であって,私たちが論じている現象に関わりがありません.

また,重なり合う正規分布が2つあることから導かれるコロラリーがいくつかあります.

ひとつは,平均からの距離の2乗だけ負の累乗したものにしたがって減少するということ.これはつまり,平均にほんのわずかなちがいしかないときですら,スコアが極端なものに向かうにつれて,そうしたスコアをもつ2種類の個人たちにみられる隔たりは大きくなるということです.つまり,分布の裾野[テール]の方に向かうにつれて,両者の比率はますます極端になっていくのです.


分布の裾野を拡大鏡でのぞきこんでみれば,カーブの大部分で分布は重なっているにもかかわらず,極端な方へ行くにつれて2つのカーブのちがいはますます大きくなっていくのが見えます.

たとえば,男女の身長の分布が重なり合うのはわかりきった話です:男性がみんなあらゆる女性より背が高い,なんてことはありません.しかし,5フィート10 では女性ひとりに対し男性は30人いる一方で,6フィートになると女性ひとりに対して2000人もの男性がいるのです.さて,認知における男女差は身長ほど極端にならない傾向こそありますが,統計的な現象は同じです.



2つ目の大事なコロラリーとして,テール部分での比は分散のちがいに影響されます.ダーウィン以来の生物学者たちがこれまで述べてきたように,多くの形質,多くの種で,オスの方が分散・ばらつきが大きくなっています.そのため,男性と女性で平均が同じ場合であっても,男性の方が分散・ばらつきが大きいという事実から,一方のテールで男性の比率が大きく,また,もう一方のテールでも同様になるという含意がでてきます.この点は,ときにこうまとめられます:「天才が多ければバカも多い.」




――今回はここまで.

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