2013年6月18日火曜日

今日のクルーグマン:「未来を争う」(要旨)

今日のクルーグマン:「未来を争う」――長期的な財政問題を持ち出していまの不作為の言い訳にしちゃいけない,という趣旨のコラム ("Fight the Future," New York Times, June 16, 2013).以下,要点をかいつまんでいきます:





[1] あのIMFが「財政緊縮をやめてアメリカの景気回復を推進すべき」との報告を出した.支出削減は,今年の経済成長をほぼ半減させてしまうし,しかもそうした削減は賢明でもないし必要でもない.

[2] とはいいながら,IMFはこれまでの緊縮ドグマから完全に手を切ることはできていない.「長期の財政的持続可能性を回復するため,中期的ロードマップの作成が急がれる」などと言っている.

[3] そこで疑問:「なにを急ぐって?」――2020年や2030年の財政問題にいま取り組むのが緊急の問題なの? そうじゃないでしょ.実のところ,財政の長期的持続可能性に取り組みましょうってのは,責任ある行動じゃなく,その逆に,いまある深刻な問題を放置するための言い訳になっている.

[4] 長期問題に傾注する問題点ってなに? 1つには,遠い未来は不確実で長期的な財政見通しはSFとしてもえらく退屈なジャンルだ.とくに財政赤字が巨額になるって予測は,たいてい国民所得よりも医療コストの方がずっと伸びていくと仮定して計算してる.でも実際にはこのところ医療費の伸びは劇的に減速していて,長期見通しはちょっと前寄りずっとマシになってる.

[5] そもそも,不確実性は不作為の理由にならない.気候変動の予測には不確実なところがあるけれど,それはいま対策をとらない理由にはならない.カタストロフのリスクがあるからだ.

[6] でも財政政策は環境政策とちがう.気候変動への対策を遅延すれば,その間にも温暖化ガスがガンガン排出されるけれど,社会保障ではそれになぞらえうるコストはない.それどころか,長期財政問題への対応を求める論拠はびっくりするほど弱い.「将来の社会保障費削減というリスクがあるから,いま社会保障費を削減しようぜ」というんだから.

[7] いまの緊縮をゆるめるかわりにもっと長期的な財政に対応するという「大交渉」は不必要だとして,じゃあそういう交渉そのものは有害だったりするの? 有害ですとも.政治的に,共和党と民主党で協定にいたる政治的な条件はそろってない.時間と労力を注ぐだけ無駄だ.

[8] オバマいちおしの医療制度改革に37回も廃案の決議をした下院共和党が,将来の財政をめぐって大統領と合意にいたるなんて,期待できるわけない.それに,仮に合意にいたったとしても,共和党がホワイトハウスを奪還したときにそれを守ると思う?

[9] 将来の選挙で有権者が政治的な二極化を強める方向へ民意を示したら,そういう交渉のときだ――2018年にヒラリーが逆転勝利して大統領になれば,しおらしくなった共和党と長期財政で交渉できるだろうし,ライアンが大統領になれば戦意喪失した民主党とメディケア民営化の合意にいたるかもしれない.でも,いまはちがう.

[10] というわけで,影響力ある人たちがいまの不作為の言い訳に未来を持ち出すのはやめる必要がある.いまここにはっきりと存在してる危機は大量失業だ.そっちにこそ対応すべきだ,いますぐに.


英語表現のメモ:


  • Unfortunately, the fund apparently couldn’t bring itself to break completely with the austerity talk that is regarded as a badge of seriousness in the policy world. → 「残念ながら,IMF は政策界隈でまじめさを見せつけるしるしと目されてきた緊縮トークと完全に手を切る気概はもてずにいるようだ」
bring oneself to VP をコウビルドで引くと,否定形で語義が解説されている:"If you cannot bring yourself to do something, you cannot do it because you find it too upsetting, embarrassing, or disgusting." 


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