2014年11月3日月曜日

クルーグマン「実業 vs 経済学」(2014年11月2日)

この月曜のコラムは,日銀の新たな緩和に言及して,これを歓迎する一方,この対策が 5対4 の僅差で承認されたことを指摘し,反対した審議員が実業界寄りの人たちであることに注目している.

▼ 冒頭2パラグラフを対訳で見てみよう:
東京にて――アメリカの連銀に相当する日本銀行が,このところデフレ終焉に向けて大いに対策を進めている.デフレは,20年近くにわたって日本経済を苦しめてきた.日銀の対策には,たくさんお金を刷ったり,もっと大事なこととして,2パーセント目標に達するまでずっとお金を刷り続けると投資家たちに確信させる試みがふくまれる.当初,こうした対策はうまく行っているように見えた.ところが,もっと最近になって,日本経済は勢いを失ってしまっている.先週,日銀は新たにもっと積極的な金融策を公表した.
TOKYO — The Bank of Japan, this country’s equivalent of the Federal Reserve, has lately been making a big effort to end deflation, which has afflicted Japan’s economy for almost two decades. At first its efforts — which involve printing a lot of money and, even more important, trying to assure investors that it will keep printing money until inflation reaches 2 percent — seemed to be going well. But more recently the economy has lost momentum, and last week the bank announced new, even more aggressive monetary measures.
お察しのとおり,ぼくはこの動きに大いに賛成だ.ただ,それでもなお,財政政策の失策のせいで失敗してしまうかもしれないと心配してる.(詳しくはのちほど.) 日銀は正しいことをやったけれど,内部に多大な意見の不一致があるまっただ中でやった.実際,今回の刺激策は,9人の審議員のうち5名のみの賛成で承認された.反対したのは実業に近い人たちだ.これが,今日のコラムの主題につながる:実業界のリーダーたちがもつ経済学の知見,というかその欠如が,今回のお題だ.
I am, as you might guess, very much in favor of this move, although I worry that the policy might nonetheless fail thanks to fiscal mistakes. (More about that later.) While the bank did the right thing, however, it did so amid substantial internal dissent. In fact, the new stimulus was approved by only five of the bank board’s nine members, with those closest to business voting against. Which brings me to the subject of this column: the economic wisdom, or lack thereof, of business leaders.

補足すると,反対したのは木内登英審議委員,佐藤健裕審議委員,森本宜久審議委員,石田浩二審議委員.(参照:「日銀が追加緩和決定、国債買い入れ年間30兆円拡大」(2014年10月31日))


▼ これに続けて,本文では次のように論じている:

  • 日本に来て話をしてみた相手のなかには,「でも日銀のやってることに反対する実業界の立派な人たちは多いですよね,あれは間違った路線なんじゃありませんか」といった意見を言う人たちもいた.ここには,「実業界で大成功してる人たちは,経済の仕組みをよくわかってるんだから,彼らの助言には真実があるのだろう」という見方が反映しているのだろう.
  • だけど,「国は企業とはちがう」:やばくなってる企業の立て直しでは,賃金や支出のカットが打つべき対策になるかもしれないけれど,その発想で不況の経済を立て直そうとすると,賃金カットと財政支出カットによって,現実問題をいっそう悪化させてしまう.その現実問題とは,需要不足だ.
  • 近年の経済危機で,連銀やイングランド銀行はかなりうまく乗り切ってきた.そこで指揮者をやったのは,ベン・バーナンキ,ジャネット・イェレン,マーヴィン・キングといった大学人たちだ.彼らは実業人たちの意見を却下して,中央銀行を運営してきた.企業経営なんて一度もやったことないけれど,経済理論と経済史を熟知している人たちの指導下で,こうした国々の中央銀行は危機に善処してきた.
  • もちろん,実業家の全員が経済分析を間違うってわけでもないし,大学経済学者の全員がただしい経済分析をやってるわけでもない.ただ,実業界で成功してるから経済についてすぐれた見識をもちあわせてるってわけじゃないよ.

▼ 結びの一文:
ここ日本では,賢慮とされる通説が優勢になれば,デフレとの戦いはほぼ確実に失敗する.でも,通説とちがう見解が実業界のリーダーたちの本能に対して,勝利を収められるだろうか? 「チャンネルはそのままで.」
Here in Japan, the fight against deflation is all too likely to fail if conventional notions of prudence prevail. But can unconventionality triumph over the instincts of business leaders? Stay tuned.

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