2014年11月3日月曜日

メモ:クルーグマン「インフレ・デフレ・日本」(2010年5月25日)


流動性の罠においてマネタリーベースを拡大させてもインフレの昂進を引き起こすことはない,と述べている例をメモしておく.全文訳ではないのでご注意を.
そう長くない文章だけど,論点は次のとおり:
  • 流動性の罠においてマネタリーベースを増やしても,インフレが進むわけではない.
  • たとえば,日銀によるかつての「量的緩和」はマネタリーベースを増やしたけれど,デフレの脱却にはいたらなかった.
  • マネタリーベース拡大では不十分で,長期資産の大量購入か,あるいは中央銀行がもっと高いインフレ目標にコミットメントをとる必要がある.
  • 一方,財政政策にはそうしたコミットメントの必要がなく,その点も目下の状況で財政政策を打つべき根拠になる.

では,文章をなぞっていくとしよう・

インフレ懸念が生じていると述べたアーウィン・ケルナーの文章に言及しつつ,このブログエントリでは,次のように論じている:
なんで Kellner なんか気に掛けるのかって? なぜなら,彼は顕著な意見を代表してるからだ.そうした意見は,基本的にマネタリーベース拡大を懸念してる.でも,論理的にも経験的にも,流動性の罠にはまってるときにマネタリーベースを大幅に増やしてもインフレ促進的にはならないのがわかる――それどころか,そうしたマネタリーベース増加は実質的に無関係になりうるんだ.
Why care about Kellner? Because he represents a significant body of opinion, which is basically worried because of the expansion of the monetary base. Yet both logic and experience show that when you’re in a liquidity trap, big rises in the monetary base aren’t inflationary — in fact, they can be virtually irrelevant.

ここから日銀によるかつての「量的緩和」に話が移る:
ここで,アダム・ポーゼンによる洞察に満ちた話 (PDF) に話がつながる.(湯中略)ここでは1つの論点だけに集中させてほしい:その問題とは,日本の「量的緩和」政策の効果だ.日本で言われる「量的緩和」では,いくらか刺激になればいいなと願ってマネタリーベースが増やされる.(ぼくらがいう量的緩和とちがって,日本の「量的緩和」には非伝統的な資産の大規模購入は含まれない.) 
Which brings me to a very insightful talk by Adam Posen (...). but let me just focus on one issue: the effects of Japan’s “quantitative easing” policy, which involved pushing up the monetary base in the hope of getting some traction. (Unlike what we now call quantitative easing, this didn’t involve large purchases of nontraditional assets.)
(※イングランド銀行ウェブサイトのポーゼン論文へのリンクが切れてしまっている)

さて,クルーグマンが引用している下記のグラフでは,量的緩和 (QE) によるマネタリーベース拡大の履歴を示している.ヨコ軸はQE開始からの経過時間(月),タテ軸は前年からのパーセント変化(右側の数字が日本,左側はイギリス):



ほぼ3年間にわたって,ベースマネーの拡大が続いていたのがわかる.

続いて引用されている下記のグラフでは 1992年から2008年までの日本のインフレ推移が示されている.緑線は企業物価指数,青い線は消費者物価指数,ピンクの線はGDPデフレータを示す:


で,クルーグマンのコメント:
ふーむ.デフレがひたすら継続しておりますわね.
[Hmm. Deflation just kept on going.]

ここから,より一般的な話:
実は,ここには「インフレを心配しなくていい」ってことにとどまらない教訓がある.流動性の罠のもとでは,金融政策を効果的にするのはむずかしいってことを思い出させてもくれるんだ.「いま必要なのはバーナンキその他の面々がもっと強い決意をもつこと,ただそれだけだ」と提案する著者たちもいる.連銀がもっとがんばってくれたらいいなとぼくは心から思ってるけど,それはそんなにカンタンじゃない.なぜなら,たんにお金を出していくだけでは,なんにもならないからだ.長期資産をたくさん購入するか――ここで言ってるのは何兆って単位の話――,あるいは,現在の FOMC だけじゃなく将来の FOMC ももっと高いインフレ目標を追求し続けるってことに信頼できるコミットメントをするか,このどちらかをやんなくちゃいけない.
Actually, this has a moral beyond not to worry about inflation. It’s also a reminder that it’s hard to make monetary policy effective in a liquidity trap. There are some writers who suggest that all we need is more determination on the part of Bernanke et al; while I dearly wish the Fed would try harder, it’s not all that easy, because just pushing out money doesn’t do anything. You either have to buy lots of long-term assets — we’re talking multiple trillions here — or credibly commit not just the current FOMC, but future FOMCs, to pursuing higher inflation targets.

他方で,財政政策にはそうしたコミットメントの問題が生じないとも指摘する:
この危機への対応策として財政政策を支持する論証の1つは,まさに,財政政策にはその種のコミットメント問題が生じないってことだ――この点は,ガウティ・エガートソンが長文で論じてる.たとえばこれ (PDF).これと対照的に,財・サービスの政府購入を急増させたときに,世間が「これは一時的でしかないな」と信じたとして,それで効果が増えることはあっても減ることはない.
Part of the argument for fiscal policy as a response to this crisis is precisely that it doesn’t pose the same kind of commitment problems — a point that Gauti Eggertssson has made at length, e.g. here (pdf). On the contrary, a surge in government purchases of goods and services is more, not less, effective if the public believes that it’s only temporary.

以上,2010年にクルーグマンがブログに書いた文章をメモっておいた.過去の発言を参照する助けになればさいわい.

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