2019年1月18日金曜日

マクファーレン「評価文脈相対主義」を訳読してみよう #04

つづき.


技術的な問い

指標と文脈

ルイス (Lewis 1980) によれば,意味理論のなすべき課題とは,言語 L のさまざまな文について,使用文脈での真偽を定義することだ.なぜ,これが目標とされるのだろう? なぜなら,L の文がある文脈で真となる条件がわかれば,それで L の話し手〔の言っていること〕を理解し〔なにごとかを〕伝達するのに十分足りるからだ.L の真な文だけを発話し他の L-話者たちも同じことをする監修に参加することでその人は L の話し手に数えられる.こうして,L の話し手が文脈 c で〔文〕S を発話したとき,S が c で真となるのは p のときでありそのときにかぎられるとわかっていれば,話し手は p を信じており相手にも p を信じさせようと意図していると推定できる.また,他の話し手に p を伝達したいときには,p のときそしてそのときにのみ真になると相互にわかっている文 T を選びさえすればいい.

言語には無限に多くの文が含まれ,しかも私たちの意味知識には有限の特徴づけをしなくてはならないため,「文脈 c で真」の定義は再帰的でなくてはならない.だが,文に複数の構成素があるとき,その構成素がある文脈で真になる条件で文全体が真になる条件を規定できるとはかぎらない.ひとつには,複合文によっては,その構成素が文ではなく開論理式になっているものがあるからだ〔たとえばどんな文?〕.また,様相演算子や時制演算子を適切に扱うには,その〔文全体の〕文脈の世界と時とは異なる世界と時で埋め込み文の真理値を考える必要があるという理由もある.たとえば,下記を評価したいとする:
Yesterday: ø
昨日: ø〔※øは命題?〕
この場合,øの真理値は発話時の前日と相対的に考える必要がある.ある文脈での真偽を再帰的に定義しようとしているなら,時だけが目下の文脈と異なる文脈 c' でøを評価する必要がある.だが,ルイスが指摘するように (Lewis 1983, 29),そうした文脈があるという保証はない.さまざまな文脈はありうる使用場面を網羅するものであって,パラミタを恣意的に寄せ集めたものではない.〔ある文の使用〕文脈の行為者はその文脈の時と世界に存在していなくてはいけない.そのため,その文脈の行為者が存在する以前にまで時をずらした場合,それに対応する文脈は存在しない.さらに,時だけが〔目下の使用文脈〕 c と異なる文脈 c' があったとしても,こうは言いたくないだろう:「Yesterday: ø が真なのは ø が c' で真のときでありそのときにかぎられる.」 ø には 'today' や 'now' といった時の指標語が含まれているかもしれず,こうした指標語はもともとの文脈 c にてらして評価されなくてはならないからだ.〔たとえば〕Yesterday it was warmer than it is now(昨日はいまより暖かかった)の埋め込み文 'It is warmer than it is now'(いまより〔現在は〕暖かい)はどんな文脈と相対的にみても真にならないにも関わらず,この文全体は真でありうる (Kamp 1971, Kaplan 1989).

こうした問題に与えられる標準的な解決法では,ある文脈と指標での真偽を再帰的に定義する.指標は,単純に,それぞれ独立に変動できるパラメタ(世界,時,変項への値の付与,など)の集まりだ.'Yesterday' に与える〔真偽定義の〕節はこういうものでありうる:

Yesterday[Yesterday: ø) が c, <w, t, a> で真なのは,ø が c, <w, t', a> で真であるときであり,そのときにかぎられる.ただしこの t' は t の前日に属す.

ここで本当に気にしているのはつまるところ文脈にてらした真偽ではあるものの,そこから文脈にてらした真偽の定義が復元できるかぎりは,指標と文脈にてらした真偽の再帰的定義はここでの目的に役立つ.
ルイス式のポスト意味論 (Lewisian postsemantics)
文 ø が c で真なのは,いかなる付与 a でも c, <w_c, t_c, a> で ø が真であるとき,そのときにかぎられる.(w_c と t_c は文脈 c の世界と時)
(cf. Lewis 1983, 31)
MacFarlane (2003, 2005a) は,このステップをポスト意味論と呼ぶ.これは,文脈と指標にてらした真偽の再帰的定義からこれを区別するためだ.再帰的定義の方は,構成的意味論と呼べそうだ.

このセクションにでてきた参照文献

  • Kamp, H. (1971) "Formal Properties of 'Now'," Theoria 37: 227-273.
  • Kaplan, D. (1989) "Demonstratives: An Essay on the Semantics, Logic, Metaphysics, and Epistemology of Demonstratives and Other Indexicals," in J.Almog, J.Perry and H.Wettstein (eds.) Themes from Kaplan (Oxford: Oxford University Press), 481-566.
  • Lewis, D. (1980) "Index, Context, and Content," in Stig Kanger and Sven Öhman (eds.) Philosophy and Grammar (Dordrecht: Reidel). Reprinted in Lewis (1983).
  • Lewis, D. (1983) Philosophical Papers, vol.1 (Oxford: Oxford University Press).

0 件のコメント:

コメントを投稿