2018年2月20日火曜日

用例抜粋: 固有名詞の可算用法

これは割とありきたりな例:
Why is Elton John worth a hundred Elizabeth Billingtons?
文脈:イギリス最高のソプラノ歌手と言われたエリザベス・ビリントンの収入がエルトン・ジョンの1パーセント程度でしかないという話に続けて――「どうしてエルトン・ジョンはエリザベス・ビリントン100人分の値打ちがあるんだろう?」(Tim Harford, 50 Things That Made the Modern Economy)
この例は複数形 a hundred Elizabeth Billingtons が伝えているのは,彼女の収入の100人分という意味で,固有名詞が指す人物とその収入という換喩の関係になっている.
同じくハーフォードの本の同じセクションからもう一例:
For the Charlie Chaplins and Elton Johns of the world, new technologies meant wider fame and more money.
「世界のチャーリー・チャップリンたちやエルトン・ジョンたちは,新技術のおかげで名声はいっそう広まり,いっそうたくさん稼げるようになった.」(Tim Harford, 50 Things That Made the Modern Economy)
こちらの複数形は,チャーリー・チャップリンやエルトン・ジョンのようなスーパースターたちを意味している.ある集団の代表的な例(チャップリン,エルトン・ジョン)を表す固有名詞の複数形で,その集団全体を表している.

あと,これは可算用法かどうか判別できないけれど,所有代名詞をともなっている例もある.文脈がわかるように,少し長く引用しよう:
Miller sees humans showing off through our consumer purchases much as peacocks impress peahens with their tails; such ideas hark back to an economist and sociologist named Thorstein Veblen. Veblen invented the concept of conspicuous consumption back in 1899. / Parlin had read his Veblen.  He understood the signalling power of consumer purchases (...)
「消費者として人々がいろんなものを購入して見せびらかしているのは,雄のクジャクが尾羽を雌に見せびらかすのとよく似ていると〔ジェフリー・〕ミラーは考える.こうした考えは,経済学者・社会学者のソースティン・ヴェブレンにさかのぼる.ヴェブレンは,見せびらかし消費の概念を1899年に発案した./ パーリンは,彼なりにヴェブレンを読みこなしていた.消費者の買い物がもつシグナリングの力を彼は理解していた.
(Tim Harford, 50 Things That Made the Modern Economy; スラッシュ / は原文の改行を示す.太字強調は引用者によるもの.)
まず,固有名詞 Veblen は Veblen その人ではなく,その著作(とくに見せびらかし消費の著作)を指す換喩に解釈されねばならない.さらに,これが his と組み合わさると,たんに「ヴェブレンの著作」という意味ではなく,「パーリン独自に理解したヴェブレンの著作」という意味にとるよう促される――と,ぼくは思うのだけれど,文法的な根拠はない.

いままでこのチラシの裏に書き付けた他の用例:


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