2016年10月17日月曜日

ミラー先生の『消費』のサンプル訳をつくってみよう (1)

ジェフリー・ミラーの『消費:性・進化・消費者行動』[Amazon] のイントロ部分だけを訳してみようと思う.


第1章 ダーウィン,モールにゆくの巻

消費者資本主義:これが現実だ,そうじゃないフリなんてしちゃいけない. 
でも,これっていったいなんなんだろう? 消費者主義はどうにも言い表しがたい.ぼくらは消費者主義という大海の中のプランクトンだからだ. 
深遠不可解なものに行き当たったら,新鮮な問いを立てるところからはじめればいい.ひとつ挙げよう:「どうして世界で最高に知的な霊長類が,よりによってハマーH1アルファスポーツ車なんぞを 139,771ドルも出して買うんだろう?」 ハマーは,移動や輸送の手段として実用的じゃない.4人しか乗れないし,逆方向に向きを変えようとすれば51フィートも必要になるし,10マイル走るのに1ガロンもガソリンを食うし,時速0マイルから60マイルに加速するまで 13.5秒かかるし,信頼性もひどい――と『消費者レポート』は書いている.なのに,世間にはハマーを買う必要を感じる人たちがいる.ハマーの広告が語るとおり,「必要なんて,ひどく主観的な言葉だ」. 
常識では,所有したり使ったりする楽しみのためにモノを買うと言われてる.でも,研究によれば,モノを手に入れるよろこびはよくても短期間しか続かない.じゃあ,なんでぼくらは消費のトレッドミルから抜け出さず,「はたらく,買う,欲を出す」のわっかを走り続けているんだろう? 
生物学は,こんな答案を出している.ヒトが進化した社会集団では,人物像や地位がとかく重要だった.たんに生存のためだけじゃなく,配偶者を惹きつけたり,友人たちに一目置かれたり,子供を育てたりするのに重要だった.現代のぼくらも,いろんな財やサービスで我が身を飾り立てているのはモノを所有する楽しみのためよりも,他人に一目置かれるためである場合の方が多い――だからこそ,消費について語るのに「物質主義」という言葉を使っているとひどく見当違いなことになってしまう.ぼくらの広大な社会的霊長類の脳は,とある中核的な社会的目標を追求するよう進化した:他人によく見られるというのが,その目標だ.お金を基盤にした経済でイケてる製品を買うのは,この目標を達成する最新式の方法にすぎない. 
これまで多くの明敏な思想家たちが現代の消費主義を理解するのに歴史の文脈にこれをおいて考察してきた.そうした人たちが問うたのは,たとえばこういう問いだ:「古代ローマでは紫で縁取られたトーガで地位を誇示していたのが,現代マンハッタンではフランクミュラーの腕時計で地位を誇示するようになったのは,どういう次第だろうか?」「1908年には黒いモデルTフォードだったのが2006年には「フレーム・レッド・パール」ハマーになるまで,なにがあったんだろう?」「贅沢品としてツナ缶(1ポンドあたり4ドル)を食べていた時代から,いったいなにがどうなってマジカル・プランクトン(Ascendedhealth.com で「海洋植物プランクトン,高振動クリスタルスカラーエネルギーによる癒やしの周波数をもつ究極の栄養食」と称して50グラムあたり168ドル,つまり1ポンドあたりなら1525ドルで販売されている)を食べるようになったんだろう?」  
本書は,こうした歴史分析と異なるやり方をとる.本書では,消費主義を進化の文脈において考察する.そのため,もっと長い期間をとって変化を見る.400万年前には脳の小さい準社会的な霊長類だったのが,大きな脳をそなえた超社会的なヒトという今日の我々にまで,どうやってたどりついたのだろう? また,それと同時に,本書では種どうしのちがいを考察する.どうしてプランクトンなどという地球上のバイオマスでこのうえなくありふれたしろものに大枚を払ったりするのだろう? シロナガスクジラなら,プランクトンなんて一日に4トンも食べる.もしも 「究極の栄養食」とやらのために Ascendedhealth.com から購入したら1220万ドルもかかってしまう.

続きは後日.

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