2013年9月1日日曜日

今日のクルーグマン:「救われざる世界」(2013年8月29日)

昨日のクルーグマンのコラムは,「インドネシアとインドの通貨安は次のアジア危機につながるのか」という懸念について,そこはおそらく心配ないけど,金融危機からちっとも学んでないのはいいかげんどうにかせーよ,とのお話:

Paul Krugman, "The Unsaved World," New York Times, August 29, 2013

以下,コラムの概要をみておきましょう.

まず,90年代のアジア危機についておさらいしてる:当初,通貨安はドル立ての債務が資産に対して膨らみ,経済の深刻な収縮につながったけど,その後,まさにその通貨安が輸出主導の景気回復をもたらした.いちばん打撃を受けたインドネシアも,6年後の2003年には危機以前のピークを越えている.

ただ,このアジア危機は金融規制緩和の不安定性について実物教育になってしかるべきだったのに,そうはならなかった.グリーンスパンやらサマーズやらは経済を救った面々として称えられた.そして,それから10年後,2008年危機がおきる.

インドネシアは98年に13%の収縮という悲惨な状態になったあと,2000年には堅調な回復がはじまって2003年には危機以前のピークを超した.他方,ギリシャは2007年に20%の収縮,しかもまだ落下は続いてる.この10年で危機以前の水準に戻ることはなさそう.

要因の1つは,90年代のインドネシアには自国通貨があって21世紀のギリシャにはないということ.でも,それだけでなく,政策担当者がかつての方が柔軟に対応していた,とクルーグマン.アジア危機でIMFは当初緊縮を求めたけどまもなく方針転換した.でも,いまだに,ギリシャへの緊縮要求はきびしい.緊縮策の失敗が重ねられればそれだけ,なおさらに血を流すことが要求されている.

で,欧州の次はアジアで危機が起こるだろうか? おそらく,それはない.インドネシアはかつてよりも外国債務の割合が減っているし,自国通貨がある.インドはさらに外国債務が少ない.だから,90年代危機の再現は,見込み薄だ.

でも,それはそれとして,かりにいま危機が回避されたとして,2008年危機の下ごしらえをした連中が90年代の危機では「世界経済を救った」なんて称えられていたのを忘れちゃダメよ.おしまい.

――という内容でした.

このコラムに先だって,クルーグマンはブログでアジア危機と欧州危機を対比しています ("The Asian Crisis Versus The Euro Crisis").メモとして,グラフだけ引用しておきましょう.

まず,インドネシア・マレーシア・タイの1人あたり実質GDPの推移を,1997年を100として示しているグラフ:



次に,アジア危機におけるインドネシアと,欧州危機におけるギリシャ,それぞれの危機以前のピークを100とした実質GDPの推移(ギリシャは2007年を起点としてあり,6年目以後はIMFの予想によるもの):


さきほどのコラムで述べられていたように,インドネシアは危機のあと大きく落ち込んだ後に,堅調な回復を見せています.他方,ギリシャは2007年から現在まで,ずっと落ち込みが続いています.

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