ほんとうのところ,僕の推測はまったくのでたらめではないのだ.というのは,僕に誰かが何かを説明してくれている間,今でも理論の正否を知るのに使っている,なかなか便利な「策略」があるのだ.それは自分の頭の中で,例を作り上げていくことだ.例えば数学の連中が何かすばらしい定理でも見つけて,すっかり有頂天になっているものとする.この定理の条件を彼らが僕に説明してくれている間,僕はその条件全部に当てはまるような,何ものかを具体的に頭の中でだんだんと作り上げていくのだ.つまりまず一つの集合(例えばボール一個)から始め,次に分離するとボールニ個になる.そして条件がつけ加えられていくごとに,このボールはだんだん色が変り,毛が生えという調子で僕の頭の中で緑色の毛だらけのボールには全然正しく当てはまらない.そこで僕は「間違い!」と叫ぶわけだ.(R.P.ファインマン『ご冗談でしょう,ファインマンさん』上巻,岩波現代文庫,pp.135-6)
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