2015年3月31日火曜日

メディアでの誤報に注意:マルチタスクの機会があるだけでも知的効率は落ちる(かもしれない)という実験

要点

  • 一般にマルチタスクが作業効率を下げるのは事実だろう.
  • でも,ヒューレット・パッカードの「インフォマニア研究」とされてるものには要注意かな.

メモ本文

ダニエル・レヴィティンの一般書 The Organized Mind で,気になってた箇所をこっちにメモする:
Just having the opportunity to multitask is detriment to cognitive performance. Glenn Wilson of Gresham College, London, calls it infomania. His research found that being in a situation where you are trying to concentrate on a task, and an e-mail is sitting unread in your inbox, can reduce your effective IQ by 10 points.
マルチタスクの 機会 があるだけでも,認知パフォーマンスには有害だ.グレシャム大学のグレン・ウィルソンはこれを「インフォマニア」と呼んでいる.彼の研究では,あるタスクに集中して取り組もうとしている状況で,インボックスでメールが未読のままになっていると実効的な IQ が10ポイント低下しうることがわかっている.
(Levitin, The Organized Mind, p.95)

なるほどなるほど.日常生活での実感にも合ってるし,おもしろい.

ただ,ここで引用されている研究には注意が必要っぽい.レヴィティンが参照してるものは次のとおり (p.413):

2015年3月30日月曜日

心理学教科書でアッシュの「社会的圧力」実験が正しく紹介されていないらしい

イギリス心理学会 (British Psychological Society; BPS) のブログの記事:
棒が並んだ画像を見せられ,どれが一番長いかをたずねられたとき,同じ被験者だと信じているサクラたちの答えに合わせて,被験者が明らかに間違った答えを言うというソロモン・アッシュの実験は有名だけれど,心理学教科書での紹介が誤解を誘うかたちになっているという.

同ブログが紹介しているのはフロリダ大学名誉教授のリチャード・グリッグズによる調査.
  • Griggs, R. (2015). The Disappearance of Independence in Textbook Coverage of Asch's Social Pressure Experiments Teaching of Psychology, 42 (2), 137-142 DOI: 10.1177/0098628315569939 

もとの実験では,被験者の応答のうち,63.2% は多数派に合わせず見たままを答えたのに対して,36.8% が多数派(サクラ)の間違った答えに合わせた.一貫して多数派に逆らった人は 25%,一貫して多数派に順応した人は 5% で,少なくとも1回は多数派に逆らった正解を答えた人が 95% にのぼる.つまり,社会的圧力に順応したのはけっして多くない.

グリッグズによる上記論文のアブストラクト:
Asch’s classic social pressure experiments are discussed in almost all introductory and social psychology textbooks. However, the results of these experiments have been shown to be misrepresented in textbooks. An analysis of textbooks from 1953 to 1984 revealed that although most of the responses on critical trials were independent correct ones, textbooks have increasingly over time emphasized the minority conformity responding and deemphasized the majority independent responding. An analysis of 20 introductory psychology textbooks and 10 introductory social psychology textbooks revealed that this distorted coverage has not only persisted but increased over the past 30 years. Given the entrenchment of such coverage in current texts, a suggestion for how to address this distorted coverage without major text revision is provided.
アッシュによる古典的社会的圧力実験は社会心理学の入門教科書のほぼすべてで取り扱われている.だが,実験結果が教科書で誤ったかたちで紹介されていることが明らかになっている.1953年から1984年までの教科書を分析したところ,決定的な試行でなされた反応の大半は独立した正解だったにも関わらず,時が下るにつれて,教科書では少数派の同調が強調されるとともに多数派の独立した反応が軽視されるようになっている.入門的な心理学教科書20冊と入門的な社会心理学教科書10冊を分析したところ,このように歪曲した紹介はたんに継続しているだけでなく,過去30年間で増加していることが明らかになった.こうした紹介が現行のテキストで定着していることを踏まえ,本文を大幅に書き直さずにこの歪曲に対応する方法を本稿では提案する.

2015年3月22日日曜日

Tog のキーボード vs. マウスの話

ちょっと気になったことをメモっておく.

ポイント

  • 「キーボードショートカットの方がマウス操作よりも速いように感じられるけれど,実はその逆である」という話がある.ソースはブルース・トグナッツィーニが1989年に公表したQ&A形式の文章だ.
  • ただ,トグナッツィーニが具体的に被験者にどんなタスクをやらせたのか,彼の文章からはよくわからない.(おそらくは,たとえばテキストエディタにある「ファイル」「編集」などのようなメニューから機能をマウスで選択したり,それに割り当てられたショートカットキー操作をする,といったタスクだったのだろう.)

2015年3月20日金曜日

誤解を誘う記事の作り方を学ぶ:NewSphereさまの事例

やや長文になったので,最初に要点を:
  • ここで取り上げるのは,経済政策の話じゃなくって,ニュース記事の書き方の話.
  • NewSphere は,クルーグマンのブログ記事を参照したと言いつつ,実際にはそこで論じられていない現日銀の政策批判が論じられているかのように誤解させる記事を書いている.
  • この書き方は単純な英文誤読ではありえない.
  • また,参照記事の明示が不適切だ.
  • もっとフェアで誠実な書き方をしてください.
  • 追記:その後,NewSphere の当該記事は取り下げられた.ぼくは,この対応は立派だと思う.

2015年3月19日木曜日

抜粋:ケント・バック「再帰的パラドクス?」

ケント・バックの論文「言うこと,意味すること,推意すること」から再帰的パラドクスについて述べた箇所をメモ:
さて,伝達に特有の意図された効果がどういうものか突き止めたところで,この意図そのものをグライスが当初どう特徴付けていたか,という話にもどれる.「この意図の認識によって聞き手にある効果をうみだす」という意図であると記述したあと,グライスはこう註記している.「ここには再帰的パラドクスがあるように見えるが,実はそんなことはない」(1957/1989: 219).なぜそう見えるかと言えば,意図が自己言及的だからだ.さらに,聞き手の推論にはなにかッ循環しているものがありそうに思える.なんといっても,聞き手は相手がそう意図しているという想定に部分的にもとづいて,話し手の意図を同定することになるのだ.だが,これにはほんとうに背理的なものがあるんだろうか? 
再帰的意図は,ある意図が別の意図を参照し,その意図もまた別の意図を参照するという数珠つながりの意図とはちがう.この点を理解しなかったために,多大な混乱が生じることになった.グライス当人ですら,混乱した.それどころか,さきほど引用したパラグラフの前半で,グライスはべつの定式化をしている.その定式化では,話し手は「自分の初wがそう意図されているものとして認識されるようにも意図していなければならない」とある(1957/1989: 219).Grice (1969) では,従前の定式化を改良しようと試みて,はっきり言明して再帰的意図を放棄し,かわって反復的な意図を支持している.グライスを批判した Strawson (1964b) もしかり,そして擁護した Schiffer (1972) もしかりだ.彼らによりいっそう複雑な定式化は,それぞれ先行する定式化に対する反例にうながされてなされたものだが,まず,あることを伝えようとする意図からはじめて,その最初の意図が認識されるようにする意図がきて,さらにその意図が認識されるようにする意図がくるとつづいて,無限につづきうるようになっている.グライスがやがてこうした着想全体を捨てて,かわりに必要とされるのは「コソコソした意図」("sneaky intention") の不在だ,と述べるに至ったのもムリはない (1989: 302).自己言及的な意図〔という着想〕を固持すれば,この複雑さも無限後退の恐れも避けられる.上記のように意図される効果が適切に特徴付けられると仮定すれば,グライスの当初の着想にはなにもまちがいなどなかったからだ.この着想は,グライスが懸念した再帰的パラドクスには至らない.
グライスのもともとの定式化に再帰的パラドクスがあるかのような外見は,「この意図の認識によって」(by means of the recognition of this intention) というキーフレーズから生じる.このフレーズを見ると,話し手を理解するためには,聞き手はなんらかの種類の循環的な推論を行わなくてはいけないかのように思えるかもしれない.まるで,聞き手がすでに話し手の伝達意図がどんなものか知っていなくては,その意図が認識できないかのように聞こえる.聞き手は,話し手があることを伝えようと意図しているという前提から話し手がまさにそのことを意味していると推論するわけではない.そうではなくて,どんな話し手もそうであるように,自分が相手している話し手も,なにかを伝達しようと意図しているという推定 (presumption) をもとに,聞き手は推論している.聞き手は,特定の意図の内容ではなくて,この一般的な事実を考慮に入れて,その意図がどういうものかを突き止めようとするのだ.

(Kent Bach, "Saying, meaning, and implicating," The Cambridge Handbook of Pragmatics, 2012. pp.54-55.) 

2015年3月18日水曜日

"you're not having to remember a new name": have to を進行形で使っている例

新しく会った人の名前を覚える場面について述べている文脈で:
Remember, you've (probably) heard the name before, so you're not having to learn a new /name/, so you just need to associate a familiar name with a new face.(いいかな,その名前は(おそらく)前に聞いたことがあるはずだ.だから,その場で覚えなくちゃいけなくなってるのは新しい *名前* じゃあない. おなじみの名前を新しい顔に結びつける必要があるだけだ.)
(Levitin, The Organized Mind, p.374)

ついでながら,なんで名前を聞いたことがあるはずかと言えば,英語圏の話なので名前といっても John だの Paul だの Robert だの,だいたいプールが決まってるからだろう.日本とはちょっと事情がちがう.

2015年3月15日日曜日

"not THE Malcolm Gladwell": 固有名詞が定冠詞と不定冠詞を伴ってる例

ベストセラー作家マルコム・グラッドウェルの講演での紹介スピーチから引用.冠詞の the と a には強勢がおかれている.
... we have the honor of hearing from Malcolm Gladwell, (拍手) No, no, don't ... not... not THE Malcolm Gladwell, A[eɪ] ...(笑い) there is more than one, so don't, eh, ... don't leave ... 
("Malcolm Gladwell: David and Goliath"; 動画の 1:25-1:43 あたり)

実はこの箇所のおかしみがぼくにはよくわからない.



ともあれ,忘れないうちにメモってみた.

2015年3月14日土曜日

"An emotional Bill Gates": 固有名詞が不定冠詞と形容詞を伴っている例

こっちは,おそらく不定冠詞 an が意味を貢献していると思われる例:
An emotional Bill Gates details his last visit with Steve Jobs
(The Verge, May 13, 2013)

引用したのは記事のタイトル.直訳すると,「感情的なビル・ゲイツがスティーブ・ジョブズとの最後の面会を詳しく語る」くらい.ここでは不定冠詞 a(n) を伴った Bill Gates が可算名詞として扱われている.

本文を見ると,次の箇所がある:
... but the longtime richest man in the world got emotional when the conversation turned to friend and rival Steve Jobs.(…だが,長らく世界一の富豪をつづけている男は,会話の話題が友人にしてライバルのスティーブ・ジョブズに及ぶと感情的になった)
ビル・ゲイツはそんなに感情をはげしく表に出すタイプじゃない.そのゲイツにも,感情をあらわにする側面があるというわけで,その側面を数えることで an emotional Bill Gates という名詞句がなりたつのだろう.

"I’ll see your Dick Morris and raise you a Paul Ryan"

固有名詞の前に所有格の your や不定冠詞 a がついてる例.こういう例は見かけたときにメモっておかないと,すぐに忘れてしまう.

「ちょいといくつか区別を立てる.ちょいといくつか概念を明晰にする.それが生活さ」

――という哲学者のシドニー・モーゲンベッサー (Sydney Morgenbesser) の言葉がケント・バックの論文の冒頭に引用されていた (Kent Bach, "Saying, meaning, and implicating," Cambridge Handbook of Pragmatics, p.47).

もとの英文:
You make a few distinctions. You clarify a few concepts. It's a living.

もちろん,ただのメモですよ.

(ちなみに,出典はよくわからない.ナイジェル・ウォーバートンせんせいもツイッターで引用してるけど.)

2015年3月8日日曜日

クルーグマン「NAIRU の制約とクロムウェルの規則」

Paul Krugman, "The NAIRU Straitjacket and Cromwell’s Rule," The Conscience of a Liberal, March 6, 2015.

要点だけを抜き出しておこう:
  • 新しい雇用レポートをみると,インフレ率を加速しない失業率 (NAIRU) の推定値近くにまで失業率が下がってきている.
  • だけど,この推定値をあまり真に受けすぎない方がいい――たとえば,1994年頃にも NAIRU 近くにまで失業率が下がったけれど,当時の連銀議長グリーンスパンたちはしばらく様子をみて,実際にインフレ率が上がっているという証拠がでるのを待った.結果は,失業率が4パーセントを下回るところまで行ったけれど,そのときインフレが急進するようなことはなかった.もしもあのときグリーンスパンたちが NAIRU の推定をもとに引き締めに回っていたら,この好ましい状況はフイにされていたことだろう.
  • また,かりに NAIRU が本当に 5.4 パーセントで,金融政策の引き締めが遅れたとしても,そのコストは巨大にはならない.他方で,時期尚早な引き締めをやってしまったら,流動性の罠にはまって苦しんでいる日本や欧州中央銀行やスウェーデンの轍を踏むことになる.
  • 連銀の政策担当者におかれましては,ぜひ,賢明な判断をお願いします.

NAIRU の推定値を過信しないようにと述べた箇所をいちおう訳しておく:
《Fed には,ぜひとも1990年代のことを思い出してほしいと思う.1994年頃,いっけん頑健そうな研究に基づいて NAIRU は 6パーセントくらいだと広く信じられていた.だが,グリーンスパンら一同は,実際にインフレ率が上がってくる証拠を待つことに決めた.その結果どうなったかっていうと,雇用は長らく伸び続けて,インフレが急進することもなく失業率は 4パーセントを下回るところまでいった.もしもグリーンスパンたちが NAIRU の推定値を目標にしていたらどうなっただろう.それまでの何兆という産出をフイにするばかりか,さらに,〔高まった需要に対して供給の〕きびしい労働市場から得られるありとあらゆるいいこともフイにしていたことだろう.》
タイトルにある「クロムウェルの規則」(Cromwell's rule) は,はじめて知った.
I beseech you, in the bowels of Christ, think it possible that you may be mistaken.(キリストのなさけ[はらわた]において懇願する,キミが間違っているかもしれないと考えてくれたまえ)

追記:さらに次のエントリでも NAIRU を取り上げている:
追記2: 『ニューヨーク・タイムズ』コラムでも取り上げて「利上げには早い」と論じている:



2015年3月7日土曜日

ピザ業界の共和党支援:ブルームバーグ記事とクルーグマンのコラムのメモ

「ブリトー業界団体だのサンドイッチ・ロビーなんてないけど,ピザ・ロビーならある」――という記事が『ブルームバーグ』に出て,クルーグマンがブログと新聞コラムで取り上げている.


2015年3月5日木曜日

クルーグマン「ウォルマート:見えざる手にあらず」(2015年3月2日コラム)


3月2日付のコラムで,労働市場の改善に押されて あのウォルマートが小幅ながらも賃上げを公表したのを受けて,中流社会(やその崩壊)は市場の必然じゃなくてぼくらの選択だと論じている:
クルーグマンがウェブ版コラムでリンクしてる New York Times の記事はこちら.日本語ニュースでは,次のような記事がでている:
米ウォルマート・ストアーズは19日、米国内で働く時給制従業員の最低賃金を時給7.25ドルから38%増の10ドルに引き上げると発表した。賃上げの原資として10億ドル(約1200億円)を投じる。
以下,コラムの論述をざっとなぞってみよう.

2015年3月1日日曜日

ヘッドホン用ハンガーをマグネットシートでとりつける

お部屋の整理ネタ.

これまで悩んでいたヘッドホンの置き場所に,ようやく手頃な解決策が見つかった.ヘッドホン用ハンガーに強力マグネットを貼って,これを金属製本棚の側面に「ぺたっ」とつけてみた.壁にねじ穴を開けなくてすむし,位置を変えたくなったらすぐに変えられる.