今日のクルーグマン：「対失業者戦争」（"War On the Unemployed," NYT, 2013年6月30日付け）．
【全体の要旨】：ノースカロライナをはじめとして，多くの州で失業手当削減が実行に移されている．これは失業者にとって無慈悲なだけでなく，みんなにとって経済状況を悪化させる非生産的な処置だ．みんな怒れ．
以下，パラグラフごとに内容をざっくりとみておきます（翻訳ではないのでご注意を）：
[1] 失業暮らしは気楽な稼業ときたもんだ？ まさか．でも，そう共和党の多くはそう思っていて，その信念にもとづいて行動に出てる．失業暮らしをキツくすれば，失業者も必死で仕事を見つけ出すだろう，というわけだ．
[2] その一例がノースカロライナだ．この大不況で大打撃を受けた同州は失業率が8.8%というアメリカでも屈指の高さになっている．失業期間が6ヶ月以上に及んでいる人たちも大勢いる．それも，求人数に対して3倍もの求職者がいる環境のせいだ．
[3] それにも関わらず，州政府は失業者援助を急激に削減した．それどころか，同州を支配してる共和党は，たんに失業手当給付期間を短縮するだけでなく，週あたりの給付額も減らすという執心ぶりだ．連邦の正気失業者援助を約7億ドルも不適格にしてる．
[4] 目を見張る有様だけど，これはノースカロライナだけの話じゃない．他にも失業手当を削減してる州は多い（連邦政府からの援助はもらいっぱなしで）．議会は経済危機で導入された失業手当期間延長を終わらせているけれど，一方で，長期失業の率は歴史的な高さにとどまっている．
[5] どうなってんの？ 残虐心からこういう仕打ちにでてるんだろうか？ 共和党は，アメリカ人の47%は「雇用創出者」に金をせびる「たかり屋」だと思っていて，多くの州ではたんにオバマ大統領を困らせるためだけに貧困者への保健医療を拒否している．たしかに，共和党は思いやりに満ちあふれた連中じゃあない．でも，対失業者戦争の動機は，残虐心だけじゃない．いじわるさとダメな経済分析が合体した産物だ．
[6] 現代の共和党は，アメリカの国民性が社会保障プログラムでむしばまれていると思っている．ポール・ライアンの有名な言いぐさが代表的だ――「セーフティネットをハンモックに変えて健常者に惰眠をむさぼらせ他人に依存して安逸をむさぼるような生活に落とし込」んでいると思っているわけだ．もっと具体的に言うと，失業保険があるせいで，職を失った労働者が利用できる仕事につかず失業状態をつづけているんだと共和党は思っている．
[7] それって根拠あるのかな？ ノースカロライナでの平均的な失業手当受給額は週あたり299ドル（税抜き）．たいしたハンモックですな．だから，失業者が意図的に安楽な生活を選んで送っていると想像してる連中は，失業の経験，とくに長期失業の経験がどんなものだかわかっちゃいないんだ．とはいえ，失業手当があることで失業者が職探しでちょっとばかりえり好みをするようになる証拠はある．経済が過熱してるときなら，このえり好みは「インフレ非加速的」失業率を上昇させるかもしれない．
[8] でも，それはいまの状況と関係ない．いまはインフレが問題なんじゃなくて，連銀が金利を十分に低くできないことが問題なんだ．失業手当を削減すれば失業者はいっそう必死になるだろう．でも，それで雇用が増えるワケじゃない．失業者の誰かがうまく仕事にありついたときには，他の労働者が失業においやられるだけだ．
[9] 「でもさー，需要と供給はどうなの？ 失業者がいっそう必死になれば，賃金下落の圧力ができるよね ．そしたら労働コストが下がって雇用の成長を促すんじゃないの？」 うんにゃ．それは合成の誤謬だ．ある労働者の賃金を切り下げたとしよう．すると，その労働者は競合する他の労働者たちより自分の労働コストを下げることで自分の雇用を守れる．でも，みんなの賃金が下がってしまえば，たんにみんなの所得を減らすだけで，経済の足を引っ張ってる家計債務負担はいっそう悪化するばかりだ．
[10] それに，その日その日をカツカツで暮らしてる失業者への手当を減らせば，全体の支出はさらに減ることになる．すると，ここでも経済状況は悪化して，さらに雇用を破壊するはめになる．
[11] だから，失業手当削減は，残酷なだけでなく非生産的なんだ．失業者をいっそう増やし，しかも彼らの生活をいっそうみじめなものにしてしまう．
[12] この状況を逆転する方法はないものだろうか？ 失業者にこんな仕打ちをしてる連中は，わかっててやってるから，いくら証拠をつきつけても考えを改めるわけがない．他方で，ぼくの考えでは，対失業者戦争がここまで進んできた理由の1つは，多くの人に見過ごされてきたからだ．
[13] というわけで，みんな，怒りをあらわにすべきだよ．
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