ハーバード大学の雑誌『ガゼット』で大統領選挙に関する記事を組んでいる.そのなかで,アリソン・ウッド・ブルックスが短い文章を寄せている:
意見がぶつかったり異なったりするなかで会話を進めていくのは,困難なタスクだ.とくに,お互いが相手を説得してやろうと目論んでいるときには,なおさら難しい.実際に意見がぶつかった大量の会話に自然言語処理 (NLP) を用いた近年の研究では,新たな発展が見られる.そうした研究では,会話を敵対的な物別れに終わらせにくくし,考えを変えたり健全な人間関係を継続させつつ会話を終わらせやすくする要素がいくらか明らかになっている.たとえば,相手を尊重する言葉遣いをすること(e.g. 罵倒しない),他人の視点を積極的に認めてはっきりさせること(「こういうお話だと理解しても大丈夫でしょうか,つまり…」),どんなにささいでわかりきったことであろうと相手の話を補う質問をすること,自分の主張を事実として述べずに断定を避ける表現をはさむこと(「…と思います」,前向きなこと vs. 後ろ向きなことで論証を述べること(「…であるのがのぞましいですね」vs「…すべきではありません」),「なぜなら」「したがって」のような説明語を避けること,自分を複数の自己にわけること(「それには賛成ですね,ただもしかして…じゃないかと思う気持ちもぼくにはありまして」).
研究の初期にえられた証拠からは,会話の「3つのウ」(うやまい・うけいれ・うけこたえ)は学習可能であり,こうした会話の技術を誰でもうまく磨けるらしいことが示されている.バイデンやトランプであってもだ.意外にも,こうした技術を習得すれば,自分のメッセージがいっそう説得的になる.だが,重要なポイントとして,大統領選の討論は1対1の会話ではない.あたかも2人が言葉を交わしているかのような体裁をとった,大勢の観客がいる政治的な劇場だ.他人に見聞きされない場で衝突をなんとか切り抜けるのに役立つことが,そのように大勢の観客がいる場でもうまくいくかどうかはわからない.もし2人の主な目標が人々の心をつかむことにあるなら,公開の大統領選討論という大きな掛け金があっかった奇妙なアリーナであっても,候補者たちは3つのウを遵守すること(相手をうやまい,うけいれ,うけこたえをすること)によってうまくやれるだろう.私の仮説は検証可能だ:論戦の後でその音声書き起こしを私たちの NLP 検出器にかけてみて,バイデンとトランプはそれぞれどんなスコアをとるだろうか? そして,2人の会話パフォーマンスのスコアは,公衆の受け取り方や支持率と合致するだろうか? 私としては,ぜひ確かめてみたい.